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ラナンキュラス

旬のもの 2024.03.04

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こんにちは。俳人の森乃おとです。
3月に入り、日差しや風にも春らしさを感じるようになりました。この季節になると、大輪のラナンキュラスが鉢植えや切り花などとして、華やかに園芸店を彩ります。花色も花の咲き方も実にさまざま。バラのように幾重にも重なる花弁が幸福を招くとして、卒業式のコサージュや結婚式のブーケとしても人気が高い花です。

美しい花を咲かすキンポウゲの仲間

ラナンキュラスは、キンポウゲ科ラナンキュラス属の多年性球根植物で、中近東からヨーロッパ南東部、北アフリカが原産です。

ラナンキュラスの仲間は、世界に500種以上分布します。しかし園芸の分野で「ラナンキュラス」と呼ばれるのは、ラナンキュラス・アシアティクス種(Ranunculus asiatics)を元に、18世紀にヨーロッパで品種改良によって作られた園芸種がほとんどです。

草丈は20~50㎝で、開花期は3~5月。根元から花茎を伸ばし、その頂部に、花径10~15㎝ほどの大きな花を1~数個咲かせます。花弁はクチクラ層というロウ状の保護膜で包まれているので、薄いけれども艶やかな光沢があります。

ちなみにラナンキュラスの名は、ラテン語のrana=カエルに由来します。カエルが好む湿地に咲くから、あるいは葉の形がカエルの足に似ているからともいわれます。

日本には明治時代の中期に渡来。「美しい花を咲かすキンポウゲ」ということから、ハナキンポウゲ(花金鳳花)という和名をつけられました。今ではほとんど使われず、属名のラナンキュラスと呼ばれることが、一般的となっています。

ルイ9世が母に捧げた黄金色の花

ラナンキュラスの魅力の一つは、花色が赤や白、黄色や紫など多彩なこと。そしてなんといっても最大の魅力は、薄い花弁が繊細に重なり合い、大輪の丸い花をたおやかに咲かせる姿にあるでしょう。咲き方も、椿のようなカメリア咲きやカーネーションのようなフリンジ咲き、バラのようなカール咲きなど、さまざまです。

ラナンキュラスは、昔から現在のようなあでやかな花だったわけではありません。品種改良される以前は、美しいけれども素朴な黄色い5弁の花だったようです。

ラナンキュラスをヨーロッパにもたらしたのは、13世紀に十字軍を指揮したフランス王ルイ9世(1214-1270年)という逸話もあります。

ルイ9世は、熱烈なキリスト教徒として知られ、聖地エルサレム奪回のため、2回にわたり十字軍を率いて中東に遠征したことから「聖王ルイ」と呼ばれます。王は愛する母、ブランシュ・ド・カスティーユのためにラナンキュラスの原種を持ち帰り、やがてイギリスに伝わると、黄金色に輝く花色から「Persian buttercup(ペルシャのバターカップ)」と名付けられました。

ラナンキュラスとピグマリオンの伝説

ヨーロッパには、恋に破れ薄幸の生涯を閉じた「ラナンキュラス」という青年にまつわる伝説があります。

ラナンキュラスは親友のピグマリオンと2人で旅に出て道に迷い、山里で一夜の宿を乞いました。そして2人はその宿の美しい村娘コリンヌに恋をします。

ピグマリオンは美青年で、コリンヌが心を奪われたのは彼の方でした。ラナンキュラスは愛し合う2人を祝福します。そして黙って姿を消し、シシリー島に渡ってはかない生涯を終えるのです。ピグマリオンは、失踪した親友を探してシシリー島にたどり着きますが、既にラナンキュラスは亡くなっていました。彼の墓の傍らには、一輪の黄金色の花が咲いており、以後、その花はラナンキュラスと名付けられたということです。

花言葉は「美しい人格」「名声・名誉」「光輝を放つ」「輝く魅力」

ラナンキュラスの花言葉には、友人と愛する人の幸せを願って身を引いたラナンキュラスの優しさを称える「美しい人格」があります。また「名声・名誉」「光輝を放つ」は、ルイ9世の権威と威厳に由来します。

さらに、100~200枚もの花弁が重なる万重咲きの品種の人気が世界的に高まると、「輝く魅力」という花言葉が加わりました。ほか「合格」という花言葉も持ちます。
3月は卒業と門出の季節。明日へのはなむけとして、幾重もの幸せを招くラナンキュラスの花束を、応援と祝福の気持ちを込めて大切な人へとお贈りするのはいかがでしょうか。

ラナンキュラス

学名: Ranunculus asiaticus 
英名: Persian buttercup
キンポウゲ科ラナンキュラス属の球根性多年草。中近東からヨーロッパ南東部、北アフリカ原産で、観賞用に栽培される。草丈は20~50㎝で、開花期は3~5月。花色が赤や白、黄色や紫など多彩。咲き方は、カメリア咲きやフリンジ咲き、カール咲きなど。和名はハナキンポウゲ(花金鳳花)。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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