こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
5月になるとすっかり緑鮮やかな青葉の季節というイメージですが、山奥ではまだ、遅咲きの桜たちが春を名残惜しむかのように咲いています。
「余花」という言葉は、春に遅れて咲く花のこと。そして、その花に降り注ぐ雨のことを、「余花の雨」と呼びます。

俳句の世界では「余花」は夏の季語になるので、少し季節を先取りしているようにも感じますが、桜と言っても種類はさまざま。桜の季節はもう終わりかなと思っていても、別の場所でまた違った種類の桜が咲いているのを見つけて、思わず笑顔になることも少なくありません。
新緑と共に咲き誇る桃色の花は、いわゆる「葉桜」とも呼ばれますが、花だけの頃とはまた違った生命力を感じる桜の姿であるように思えます。
たとえ花の見頃が過ぎてしまっても樹木の命はそこで終わるわけではなく、これからますます盛んに萌え、雨期の豊かな水や生き物たちのいる土、夏にかけての力強い日差しなど、自然界から受けた力でたくましく育っていくわけです。

「余花の雨」という言葉は、声に出すとたった5文字。それなのに、まだ淡く透き通る葉の中にひっそりと咲く余花の美しい姿があり、そこにやさしく降り注ぐ雨という、「花」「葉」「雨」の三つが贅沢に感じられる絵画のように美しい言葉ですよね。
特に俳句などの短い文学作品の中には、ほんの僅かな言葉にさまざまな景色や場面や想いが表現されるわけですから、深みを感じさせる美しい日本語に出会う機会も多いように思えます。
日本語には、たったひとつの言葉からでもここまで人の想像力をかきたてるものがたくさんあるのですから、本当に神秘的な力強さを感じてなりません。
古来より「言葉にも霊魂が宿る」という考えから「言霊(ことだま)」という概念も受け継がれてきたわけですが、これはある意味で日本語ならではのこととも言えるかもしれません。

それにしても、春から夏に橋を架けるこの季節は、道を何気なく歩いているだけで、一つひとつは小さいながらもたくさんの「命の力」に出会うことができます。
濃淡鮮やかな草や葉に色とりどりの花たち、元気に動き回る虫やにぎやかな鳥たちの姿。
自然が見せてくれる「明るい未来を予感させるような変化」は、いつの時代も私たちの心を前向きに浮き立たせてくれるような気がします。
私たちの感じる「幸福」や「喜び」というものにはもちろん多くの種類がありますが、こういった自然の姿を五感で受け止めたときの静かに染み入るような感動は、決して派手なものではありませんが、人として大切に持ち続けたい感性の一つなのではないでしょうか。

新緑からの雨期、そして夏の本番――。まだまだ、生き物たちの力強さを感じられる季節は続きます。
心のアンテナをしっかりと立てて、「余花の雨」のようなしみじみと美しいものを見つめる時間も、かけがえのない人生の中では大切にしていきたいものですね。

紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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