こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「がめ煮」についてのお話です。
ある日、「博多料理のランチに行こう」と友人に誘われた。どうやら明太子が食べ放題のお店らしい。それはとても魅力的である。たらふく明太子を食べたい。当日、朝ご飯をほどほどに控えてお腹を空かせた私は、軽い足取りで現地へ向かった。
「博多料理って、明太子以外にどんなものがあるんだろう?」父が熊本出身のため、帰省でよく九州には行った。福岡も度々寄ったが、子どもだったので博多グルメのことは詳しくない。食を通して、改めてその土地の新しい発見をするのも楽しいものだ。
友人と合流し、少し並んで店内へ。ランチはメインに小鉢が付き、明太子だけでなく、からし高菜とご飯までもが食べ放題という定食スタイル。選べるメインは、九州産の魚の干物や鶏の唐揚げ、豚の生姜焼きなど。
そして「がめ煮定食」なるものを見つけた。「がめ煮って何だろう?」と説明を読むと、どうやら「筑前煮」のことのようだ。筑前とは、福岡北部、西部にあたる筑前地方のこと。筑前煮は福岡の郷土料理なのだという。
和食が好きな私は、もれなく煮物も大好物。出汁や醤油で味付けされたあの安心感はたまらない。たちまち煮物の口になってしまった私は、この「がめ煮定食」を選んだ。
出てきたがめ煮は、やはり私の知る筑前煮だった。ぶつ切りにされた鶏肉に、人参、蓮根、ごぼうや蒟蒻がごろりと入っている。それぞれの食材の歯応えを想像するだけですでに美味しい。煮物は茶色く地味になりがちだが、湯がかれた緑色の絹さやがアクセントになり、いっそう食欲をそそられる。
「これがあれば、何杯でも食べられちゃうわ!」と、濃いめの味付けに白ごはんが進む進む。明太子をたくさん食べるぞと意気込んでいたのに、結局ほとんどおかわりせずに、がめ煮で満足してしまったのだった。
どうして「筑前煮」のことを「がめ煮」というのだろうか?気になって調べてみると、方言が由来しているらしい。がめ煮は地元の鶏肉や野菜など、いろいろな食材を一緒に料理する。博多の方言で「寄せ集める」ことを「がめぐりこむ」というそうで、それが「がめ煮」になったという。ちなみに福岡では鶏肉とごぼうの消費量が多いらしいのだが、これはがめ煮がよく作られるからと言われているそうだ。
また、豊臣秀吉が朝鮮への出兵の時に博多に立ち寄り、すっぽんと野菜を煮たことから、すっぽんの博多弁「がめ」が「がめ煮」になったという説もあるらしい。すっぽん料理に馴染みのない私にとっては、がめ煮が今でも鶏肉ではなくすっぽんだったら、ここまで大好きなおかずになっていなかったかもしれない。
がめ煮や筑前煮は「煮」という漢字がついているので、長時間煮込む必要があると思われがちだが、比較的料理時間は短い。
具材の奥に味をしみ込ませず、具材表面の濃い目の味と、素材の持ち味のコントラストを楽しむのがおすすめ。最初に油を使って具材を炒めることで、長時間煮込まなくてもコクを出すことができる。まだ暑さの残る台所でも、比較的作りやすいだろう。
深まる秋に向かって、私たちのからだも味わい深い料理が食べたくなってくるころ。これから美味しくなってくる根菜たちを沢山がめぐりこんで、「がめ煮」を作ってみるのはどうだろうか。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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