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スイートアリッサム

旬のもの 2024.10.07

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こんにちは。
俳人の森乃おとです。

真夏の猛暑の間、細い小さな葉を地面に這わせて耐えていたスイートアリッサムが、秋風の吹く頃、第二の開花期を迎えます。白やピンクの可憐な花の群れが次々の咲き広がり、そのハチミツのような優しい甘い香りは、私たちの心を幸福な気持ちへといざないます。

芳香ある花はグランドカバーや寄せ植えに人気

スイートアリッサムは、アブラナ科ニワナズナ属の一年草です。原産地は地中海沿岸地方。花期は2~6月と9~12月。真冬と真夏を除きほぼ一年中咲き続けます。

学名はLobularia maritima(ロブラリア・マリティマ)。属名の「Lobularia」はラテン語で「小さな葉」、種小名「maritima」は「海岸近くに生息する」を意味します。原産地では、日当たりのよい海岸の砂浜などに自生し、ごく一般的に見られる植物です。

地面を這うように増える性質があり、草丈は10~15㎝ほど。4弁花の花径は1~4mmとごく小さく、白を基本に赤、ピンク、紫など花色は豊富。多数の花が盛り上がって咲く姿は、まるでミニチュアの花束のようです。

背が低く丈夫なことから庭のグランドカバーとして人気があり、群生すると花のカーペットとなり、美しい景色をつくりだします。同時期に咲くパンジーやビオラに合わせると素敵な寄せ植えにもなります。

英名の「Sweet alyssum(スイートアリッサム)」は、花に甘い香りがあることに由来します。和名は同じアブラナ科の「ナズナ(薺)」に似ていることから「ニワナズナ(庭薺)」。「ニオイナズナ(匂薺)」の名もありますが、現在ではほとんど使われません。
香りある可憐な花はエディブルフラワー(食用花)としても使われ、前菜やデザートなどに飾られます。

「スイートアリッサム」と「アリッサム」は別の植物

スイートアリッサムは、名前が短縮されて単に「アリッサム」と呼ばれることがありますが、厳密にいうとこの2つは別の植物です。

スイートアリッサムの学名は「Lobularia maritima」。アリッサムの学名は「Alyssum montanum(アリッサム・モンタナ)」です。「Alyssum」は、古代ギリシャ語が起源で、「狂気を防ぐ」という意味を持ちます。
属名も異なり、スイートアリッサムはアブラナ科ニワナズナ属の植物ですが、アリッサムは同科アレチナズナ属に分類されます。

花色も異なり、スイートアリッサムには白、赤、ピンク、紫などがありますが、アリッサムには黄色い花しかありません。また、アリッサムにはスイートアリッサムのような香りもありません。
開花時期にも違いがあり、スイートアリッサムは真夏や真冬以外花を咲かせ続けますが、アリッサムの花期は春だけです。

花言葉は「優美」「美しさに優る価値」「飛躍」

スイートアリッサムの花言葉は、「優美」「美しさに勝る価値」と「飛躍」。
「優美」は可愛らしく優しい花の印象から。「美しさに勝る価値」は、グランドカバーになるなどガーデニングに大いに役に立つことから、「飛躍」は花期の直前に分岐を繰り返し、花のボリュームが一気に増大する様子から生まれました。

さて、スイートアリッサムは俳句の世界で季語として扱われていません。和名のニワナズナも同様です。わが国への渡来時期も不詳で、1862年に幕府の遣欧使節団が種子を持ち帰ったという説もありますが、確認されていません。

俳人の細見綾子氏(ほそみ・あやこ/1907―1997)には「昨日より 今日新しき 薺花(なずなはな)」という句があります。この句は、春の七草の一つ「ナズナ」を詠んだものではありますが、スイートアリッサムの優美でありながらも“昨日より今日”をたくましく生きる姿によく似合うように思えます。

スイートアリッサム(Sweet Alyssum)

学名:Lobularia maritima
和名:ニワナズナ(庭薺)
アブラナ科ニワナズナ属の半耐寒性一年草。地中海沿岸地域原産。草丈10~15㎝ほどで地際にてよく分岐して広がる。花期は2〜6月と9〜12月。4弁花の花径は1~4mmと小さく、白を基本に、赤、ピンク、紫など花色は豊富。花には甘い香りがある。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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