こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「里芋の煮っころがし」のおはなしです。
暑い夏がやっと終わり里芋が美味しい季節になってきた。里芋は稲作よりも早く日本に伝来して親しまれていたらしい。芋といえば、里芋を指していた時代もあったそうで、長い付き合いのある食材のようだ。

里芋には独特のぬめりがありますが、料理する際には少しばかり厄介。皮を剥く時には、つるつると里芋が滑ってあたふたしたり、包丁で怪我してはならないと慎重になったりする。さらに言えば、皮は硬いし、泥も落とさなければならない。里芋を触ると痒みが出てしまうこともある。なんとも面倒な食材である。
里芋料理の代表的なおかずに「里芋の煮っころがし」がある。甘辛く煮付けられた和食の定番だ。煮っころがしには作り方がいくつかあるが、里芋のぬめりを取らずに、そのまま煮汁に加えて煮る方法がある。とろみがついた煮汁が里芋によく絡み、中身は白いままほくほくとした仕上がりになる。ぬめりが独特の食感を生み出すだけでなく、料理にコクやとろみを加えてくれることで、ホッとするような素朴な味わいが楽しめるのだ。

里芋の煮っころがしは名前の通り、鍋の中で転がして作りあげる。里芋を煮ていくその姿は、どこか滑稽で愛らしい。まるで、お鍋の中で楽しそうに踊っているようだ。
ツルツルと滑りながら、煮汁の中でくるくると回転する里芋。その姿を見ていると、大変だった下ごしらえのことも許せてしまうから不思議。そんなことより早く食べたいなぁと、鍋の中を見つめては里芋をころころと転がし続けるのだ。

そんな手間をかけて出来上がった煮っころがしは、箸でそっと持ち上げ、口の中に運んで上品に味わいたいもの。
それなのに、お箸で掴んだつもりがツルッとすべって器の外にコロリン!と出てしまったり、ツルツルとすべる里芋をいつまでも追いかけたりする、なんてことも。
「最後まで手のかかる子だね!」とねちねち言いながらも、口の中は幸福感でいっぱい。気がついたら、また作りたくなってしまうのは「手のかかる子ほど可愛い」ということなのだろうか。

ちなみに里芋の煮っころがしをうまく箸で掴むには、盛り付けるお皿の選び方も大事。少し深さのある鉢を使うのがオススメ。器の端に移動させ、器のヘリに軽く押し当てながらゆっくり挟むと、ぽろんと転がりにくく食べられます。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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