秋から冬にかけては、海の恵みが一層豊かになる季節です。
秋も深まり、寒さが増すにつれて、海底でじっくりと育った「甘海老」が一番おいしいシーズンを迎えます。
ぷりぷりとした食感に、口の中いっぱいに広がる豊かな甘み。一度味わうと忘れられない贅沢なひととき。甘海老は、この時季ならではの特別なごちそうです。

実は「甘海老(アマエビ)」は通称。正式な名称は、「ホッコクアカエビ」といって、主に日本海や北日本の寒冷な海域で漁獲される小さなエビです。
普段は水温の低い水深500mほどの深海に生息しているため、底引き網漁やかご縄漁などで年間を通して水揚げされます。今では誰もが知っているおいしいエビですが、食用の歴史は意外にも短く、本格的に流通するようになったのは1970年代以降。
石川や富山をはじめとする北陸地方では、冬の旬の味覚として愛されており、地元の人々にとっても、欠かせない食材です。新鮮な甘海老の身はぷりぷりとした食感で、噛むたびに舌の上で広がる自然な甘みが魅力。この甘みは、冷たい海水で育ったホッコクアカエビ特有のものです。
新潟県では「南蛮エビ」、山形県では「赤エビ」など、地域によって異なる名前を持ち、それぞれの地域で親しまれてきました。

鮮やかな赤い殻と透き通るような身が特徴で、特に生で食べるとそのとろけるような甘みが際立つため「甘海老」と呼ばれるようになりました。
最も味が良くなるのは水温が低くなる晩秋~春先にかけて。このころ、体長15cmほどに成長し、青緑色の卵をお腹に抱えたメスは特においしいとされ、珍重されます。刺身の際にはその卵を一緒に味わうのも楽しみの一つです。
ところで、甘海老は成長の過程で性転換する、不思議な生態の生き物。ふ化してから数年間はオスとして成長し、5年目ごろの春に性転換してメスになります。その後はメスとして過ごし、11年の寿命のうちに3回ほど産卵をするそう。つまり大きく成長した甘海老は、みんなメスというわけです。

甘海老は、特に新鮮なものを刺身で食べるのがおすすめですが、塩焼き、天ぷら、唐揚げなどにしても絶品です。加熱すれば、生とはまた異なる甘みと旨味が引き出され、どの調理法でも甘海老のおいしさを堪能することができます。
家庭料理として昔から知られる調理法は味噌汁です。殻から濃厚で良質な出汁が出て、味噌汁の風味がまろやかになります。味を刺身で食べたあとの頭だけでも十分おいしく、簡単に作れますので、食卓にも取り入れやすいですね。
これからの季節、ぜひ旬の甘海老を味わいに、漁港や市場を訪れてみてはいかがでしょうか。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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