冬の味覚の代表「トラフグ」。
トラフグは高級魚として知られ、関西を中心に西日本ではフグのちり鍋「てっちり」が寒い季節に人気です。

毒のある魚として有名なフグですが、各地の貝塚からフグの骨が発見されているように、日本人は古代より、その味わいに魅了されてきました。しかし、その毒の危険とは常に隣り合わせだったはず。フグの毒で中毒死した人も多かったことでしょう。
江戸時代には多くの藩で食用が禁止されていたものの、『本朝食鑑』(1697)では「味は淡白で最もおいしい」と称賛され、井原西鶴の作中にもフグ汁を味わう人が登場し、川柳や俳句にもたくさん詠まれるなど、実際には江戸時代にもフグが食べられていたようです。毒のあることは広く知られていましたから、恐る恐る食べてみたら予想以上においしくて、その味の虜になってしまったのかもしれませんね。
その後、次第に安全な調理法が確立されていきます。明治に入って、伊藤博文が下関でフグ料理を食べたところ、その味わいに感嘆し、山口県でいち早くフグ食が解禁されました。
一方大阪では、昭和20年代にフグの調理販売を免許制にする条例が全国に先駆けて定められたこともあって、フグ料理屋が増えていきました。

大阪を中心に関西では「てっちり」の名前で知られるフグのちり鍋。その語源は、フグがかつて「鉄砲」略して「てつ」の異名で呼ばれていたことに由来します。フグの毒は「食べればあたる」「あたれば死んでしまう」ことから、シャレを効かせて「鉄砲」というわけです。
てっちりは、フグの身を昆布だしで煮て食べるシンプルな鍋。脂肪が少なく、上品で淡白でありながらも、奥深い味わいが特徴のフグの身は、火を通すとプリプリとした弾力のある食感に。噛むほどに口の中に旨味とほのかな甘みが広がります。
また、鍋に入れる白菜、水菜、春菊、ニンジン、長ネギなどの野菜や豆腐、椎茸などのキノコ類との相性も良く、ポン酢でさっぱりといただけば、てっちりのおいしさが堪能できます。

フグの刺身は「鉄砲の刺身」なので、「てっさ」と呼ばれます。
お皿の模様が透けて見えるほど、非常に薄いそぎ切りにし、美しく並べる技術は素晴らしいもの。薬味のもみじおろしやアサツキを添えて、ポン酢でいただけば、フグの身そのものの味わいを楽しめます。厚く切ってしまうと、身に歯応えがありすぎて、噛み切りにくくなるのだとか。
鍋や刺身だけでなく、唐揚げや白子の天ぷらなども珍味として人気のメニューです。

フグの街といえば、先ほども登場した山口県の下関。全国のフグの約7割を扱う南風泊市場も下関にあります。その中でもトラフグは山口県の県魚に指定されており、言わずと知れた県を代表する魚です。
トラフグの旬は一般的に冬とされ、冷たい海水で育ったフグは、身が締まることでさらに旨味を増します。

下関ではフグを「フク」と濁らずに呼び、幸福につながる縁起物として祝いの席にも欠かせません。フグ食の解禁が下関からだったように、特に、下関は現在でもフグ文化の中心地として知られ、身欠きの技術も一流。ここから全国へと出荷されていきます。
しかしながら、天然のトラフグは年々漁獲量が減っているため、漁期は冬季のみと決められています。限られた海の恵みを大切に味わいたいですね。
フグの食文化は、危険と隣り合わせでありながらも、そのおいしさを追求し続けた日本人の工夫と努力の結晶とも言えます。冬の味覚として親しまれているてっちりやてっさ、フグの旬を逃さずに、味わってみてはいかがでしょうか。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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