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トモエガモ

旬のもの 2025.02.27

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

冬は、野鳥観察のベストシーズン。とくにカモの仲間は日本で越冬する種類が多く、色彩が美しいので見るのが楽しい鳥です。今回とりあげるトモエガモもそんなカモの1つで、今一番の注目株。バードウォッチャーの世界では話題沸騰中の鳥なのです。

トモエガモのオス

さて、そのトモエガモ。全長40cmとカモ類では小型の部類にはいります。オスの顔には、黒く縁取られた緑や黄色の模様があり、これが巴模様を連想させることが名前の由来です。顔の緑の部分は構造色で、日の光が当たるとメタリックグリーンに輝き、それはそれは美しいのです。メスは、褐色ベースの地味な鳥ですが、嘴の付け根にえくぼのような丸い白斑があって可愛らしく見えます。

トモエガモのメス

では、なぜ、そのトモエガモが今話題沸騰中なのでしょうか。それはちょっと前まではかなり珍しかったのに、現在は信じられないくらいの大群が見られるようになったから。

トモエガモは、東アジアに分布する鳥で、夏はロシアのシベリアで繁殖し、日本や朝鮮半島、中国で越冬する渡り鳥です。日本の個体数は1980~1990年代には300~400羽にまで減少し、現在も環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されています。とにかくとても珍しく、たった1羽が池にあらわれただけで、私はわざわざ見に行ったくらい。「トモエガモを見た」なんて鳥友達に言うとうらやましがれたものです。

ところが2020年1月に、千葉県の印旛沼にトモエガモが7,000羽いるという情報が私の耳に飛び込んできました。これは何かの見間違えでは?とさえ思われたのですが、どうも本当に大群が飛来したようなのです。翌年の2021年1月に、私は印旛沼へ確認に行ってみました。するとどうでしょう。水面に鳥が大量に浮いているではないですか! その全てがトモエガモだったのです。そのとき、ざっと数えてみたら約24,000羽となり、そのときは一生分のトモエガモを見たと思ったのでした。

その後、日本に渡来するトモエガモの大群は、千葉県の印旛沼だけでなく、九州の有明海や島根県の宍道湖にも出現していることが判明。2024年1月には、全国で約38万7千羽もの大群が記録されたのです。今シーズンも2025年1月4日に私は印旛沼へ行ってみましたが、トモエガモの大群は健在でした。おそらく10万羽はいるのではという感じです。この鳥の最大の特徴は、超過密集団を作ることです。それは湖面で休むときも空を飛んで移動するときも同じで、大集団で空を飛ぶ様は正に圧巻。バードウォッチング暦50年の私ですが、1度にこんなに大量の鳥を見たことがありません。その光景は何度見ても思わず「うわー」と言ってしまいます。

では、いったいどうして急激にトモエガモが増えたのでしょうか。じつはお隣の韓国でもだいぶ前から31万から47万羽の範囲でトモエガモが越冬しています。その数は今も変わらないので、その鳥が日本に来たと言うことは考えられません。そうなるとやはり疑わしいのは繁殖地です。

ロシアの研究者によると繁殖する地域が広がっていると言い、要するにトモエガモの繁殖する数が増えている可能性があります。何故、繁殖が増えているのかはわかりませんが、地球温暖化の影響が追い風となって繁殖条件が良くなっているのではないかという可能性が考えられているそうです。

さて、これだけ大量にいるトモエガモの食糧はどこにあるのか気になるところです。沼にいるときは寝ているので、沼で食べものをとっている感じはありません。毎日、日没後暗くなると一斉にどこかへ飛んでいくので、夜間に食べものをとっているのは間違いなさそうです。

このカモはドングリや落ち籾が主な食べものとして知られており、どこかにそれがあって食べているのでしょう。でも、10万羽の胃袋を約3ヶ月間も満たし続けるにはとんでもない量の食べものが必要になります。どこで何を食べているのか、これからその謎を解き明かしたいと思っています。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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