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茄子の煮浸し

旬のもの 2025.07.24

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「茄子の煮浸し」についてのお話です。

夏野菜の中では、特に茄子が大好きだ。
子どものころは、あのぐにゃぐにゃでとろとろとした食感が少し苦手だった。色の抜けた茄子を見ると、あまり美味しそうに思えず、箸が進まなかった。
それがいつからか、好物になった。茄子には、他の野菜と一味違う魅力がある。お肉にも劣らない満足感のある食感、油や出汁をしっかりと抱え込むジューシーさが出せるのは茄子だけだ。もちろん、焼いても煮ても揚げても美味しい。旬の夏の間は、できるだけ冷蔵庫の野菜室に常備していたい食材である。

特に「茄子の煮浸し」がたまらない。お呼ばれに伺ったお宅などで、食卓に茄子の煮浸しが出てくると、もうその人に恋してしまいそうなくらい、私は嬉しい。
茄子の煮浸しや揚げ浸しは、一見シンプルな料理だ。しかし実は随所に作り手の細やかな気配りや手間暇が込められている。

まず、茄子と油との繊細な駆け引きがある。茄子は油をスポンジのように吸い込む。油が少なすぎるとパサつくし、多すぎると油っぽくなる。かつ、焦げないように絶妙な焼き加減・揚げ加減を見極めなければならない。ただ焼いたり揚げたりすればいいというだけでないのだ。油の使い方で、茄子は出汁を吸い込みやすくなり、唯一無二のとろける食感になる。茄子の鮮やかな色を保つためにも、この作業は大事だ。

また、味を馴染ませるために、調理したての茄子を出汁に浸して時間をかけて作られている。作ってすぐ食べても美味しいが、熱い茄子を冷たい出汁に浸すことで、温度差で出汁が茄子に良く染み込む。そして一晩寝かせる方が、茄子に出汁が行き渡って味に深みが出る。「もっとおいしくなるように」と前日から時間をかけて作られたものをいただくことは、まさに贅沢なことだと言えよう。

他にも出汁が染み込みやすく、美しく見えるようにと細かい切れ込みを入れたり、大葉や茗荷などの季節の薬味を添えて清涼感や風味を引き立てたり、出汁にこだわってみたりと、茄子の煮浸しには、様々なところに作り手の丁寧な仕事と心配りが凝縮されている。
そして何より、暑い夏にキッチンに立って、時間をかけて料理をしてくれたということを考えると、一層この茄子の煮浸しという料理は有り難く、愛おしくなるのだ。

食卓に並べられた茄子の煮浸しを目にした瞬間、「大好きな煮浸しだ!」と思うと同時に作り手の心遣いもじんわりと伝わり、美味しさに拍車がかかる。箸で持ち上げると、ずっしりとした重みがあり、口に運べば、とろけるような食感と共に、茄子が抱え込んだ出汁の旨味がじゅわっとあふれ出す。油のコクと、出汁の繊細な風味、そしてほのかな甘みが一体となり、舌の上で至福のハーモニーを奏でる。
冷たい茄子の煮浸しは、暑さで疲れた体にも心にも染み渡る、心尽くしの夏の料理なのだ。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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