猛暑続きだった夏の名残が、まだまだ肌にまとわりつく9月上旬、ひとしずくの酸味が秋の訪れを知らせてくれる果実があります。それが徳島県特産の「酢橘」です。
食卓に秋を運んでくれる柑橘
まだまだ残暑の厳しい日々ですが、夜風に涼しさが混じり始めると、食卓にも秋の味わいを求めたくなるもの。そんなとき、手のひらにころんと収まる小ぶりな緑色の柑橘「酢橘」が夏から秋への季節の移ろいを感じさせてくれるのです。
酢橘はミカン科の柑橘の一種で、国内で流通する酢橘のほとんどが徳島県産。全国シェアは9割以上という、まさに「徳島の顔」とも言える果物です。
徳島の温暖な気候と吉野川流域の肥沃な大地が、香り高い酢橘の育成に適しており、栽培が広がったといいます。特に名産地とされる佐内河内村や神山町では、斜面に酢橘の木が植えられ、晩夏から初秋にかけて、小さな緑色の果実がたわわに実る風景に出会えます。露地ものの旬は8月下旬から10月ごろ、爽やかな香りと力強い酸味が最もおいしい季節です。
古くからお酢のかわりに酢橘を絞って利用していたため、「酢の橘」から「酢橘」と名付けられ、それが「すだち」と略して呼ばれるようになりました。どのように誕生したのかについては不明な点が多いのですが、徳島県内には樹齢200年を越える古木があり、江戸時代の文献にも「スダチ」の名が登場することから、そのころには重宝されていたようです。
酢橘をとりまく食文化
上品な酸味と香りは、特に秋の味覚の秋刀魚や松茸との相性が良く、焼き秋刀魚の隣は酢橘の定位置ともいえるでしょう。酢橘の爽やかな酸味は夏の疲れや食欲不振を解消してくれて、食材の風味を一層引き立ててくれる存在です。
近年は、秋刀魚の不漁が毎年のようにニュースを賑わせていますが、今年はいくぶん漁獲量が回復傾向とも。秋刀魚に酢橘の組み合わせで、秋の食卓を彩りたいものですね。
徳島の家庭の食卓には酢橘が欠かせず、焼き魚に添えるだけでなく、そうめんに絞ったり、味噌汁に加えたり、日常的にいろいろな料理に使われています。和食にとどまらず、魚のムニエルや牛肉のバターソテーなどの西洋料理に絞っても、柑橘の軽やかな香りが食欲をそそります。
酢橘の清涼な香りは、夏を惜しみながらも新しい季節へと心を切り替える後押しをしてくれる気がします。そして、酸味のもとになっているクエン酸は疲労回復にも効果的。まだまだ残暑が厳しく、夏の疲れが気になる時期ですから、積極的に酢橘を料理に取り入れていきたいですね。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
