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オオソリハシシギ

旬のもの 2025.09.16

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

暦の上ではすでに9月ですが、気温はいっこうに下がらず、まだ夏が続いているような感覚ですね。とはいえ、鳥たちの世界ではすでに秋の渡りが本格化しており、日本各地でもその途中の姿を見ることができます。

今回ご紹介するオオソリハシシギも、そんな渡り鳥のひとつです。繁殖地から越冬地へ向かう長い旅の途中、日本の海辺に立ち寄って羽を休めていきます。

写真提供:柴田佳秀

体の大きさは39センチ。水辺にすむシギの仲間で、特徴は長くて少し上に反り返ったくちばしです。この形から「オオソリハシシギ」という名前がつきました。

ただ、この鳥を実際に見たことがある人は多くないと思います。むしろ、今回初めて名前を知った方が多いのではないでしょうか。その理由は、オオソリハシシギが特定の環境に行かないと出会えない鳥だからです。

幼鳥 写真提供:柴田佳秀

その環境とは「干潟」。いわゆる潮干狩りをする場所といったほうがイメージしやすいでしょう。干潟にはアサリをはじめ、多くの貝が生息しています。さらにゴカイやカニなどもいる、実に多彩な生きものがひしめく場所なのです。

写真提供:柴田佳秀

オオソリハシシギは、こうした生きものを求めて干潟にやってきます。長いくちばしを砂に差し込み、カニやゴカイをとらえて食べるのです。もちろん、これほど生物が豊富な場所ですから、やってくる鳥はオオソリハシシギだけではありません。シギやチドリ、カモメやサギなど、実にさまざまな鳥たちが集まり、干潟は大いに賑わいます。いわば干潟は、渡りの途中に鳥たちがエネルギーを補給する「レストラン」。とても重要な場所なのです。

写真提供:柴田佳秀

さて、今回の主役オオソリハシシギですが、実は驚くべき能力を秘めた鳥です。その能力とは「飛行距離」。アラスカから飛び立った1羽がニュージーランド北部まで渡ったことが確認されています。その距離は約1万1000キロ。人工衛星を用いた追跡調査によって明らかになった記録です。さらに驚くべきは、この長距離移動のあいだ、一度も地上に降りることなく、約9日間も飛び続けたこと。これは現在確認されている鳥類の「無着陸長距離飛行」の世界記録となっています。

私自身も、この鳥の驚異的な力を実感した体験があります。それは春のこと。東京湾の三番瀬という干潟で2羽のオオソリハシシギに出会いました。春ですから、秋とは逆に越冬地から繁殖地へ向かう途中に立ち寄った個体です。
双眼鏡で観察していると、足に白いものがついているのに気づきました。それは標識調査のために取り付けられた「フラッグ」と呼ばれるもので、文字や数字が記されており、その鳥がどこから来たのかを知る手がかりになります。その鳥には「YSB」と記されたフラッグが付いていました。

フラッグをつけたオオソリハシシギ 写真提供:柴田佳秀

その日の夜、私は「YSBのフラッグをつけたオオソリハシシギを見た」と写真を添えてSNSに投稿しました。すると3日後、そのフラッグの情報に詳しい海外の方から返信があり、驚くべき事実がわかりました。なんと、その鳥はニュージーランド南部から飛んできたというのです。

ニュージーランド南部から三番瀬までは直線距離で約9,570キロ。実際には風の影響などでさらに長い距離を飛んできたに違いありません。自分の目の前にいたあのオオソリハシシギが、はるか遠い南の地から何千キロもの旅をしてたどり着いたと思うと、胸が熱くなるような感動を覚えました。

ハマシギの群れとオオソリハシシギ 写真提供:柴田佳秀

渡り鳥は、はるか遠い国々をつなぎ、地球規模での自然のつながりを私たちに教えてくれる存在です。オオソリハシシギの壮大な旅を知ると、目の前の干潟の風景がいっそう貴重でかけがえのないものに思えてきます。

写真提供:柴田佳秀
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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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