こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
ようやく暑さがやわらぎ、外を歩くのが気持ちのよい季節になりました。秋はバードウォッチングのベストシーズン。私も毎日そわそわしていて、少しでも時間があれば双眼鏡を手に近所のフィールドへ出かけています。
先日も、快晴の朝にちょっと早起きをして、近くの公園の森を歩いてみました。この時期は、渡りの途中の思いがけない鳥に出会えることがあるので、わくわくしながら鳥を探します。森の小道を抜けて広場に出たときのこと。ふと空を見上げると、ふわりふわりと羽ばたきながら飛んでくる鳥が目に入りました。カケスです。
秋の森では、こんなふうにふわふわと飛ぶカケスによく出会います。彼らは冬のすみかへ移動する途中で、夏を過ごした山の森からやって来たのです。このまま平地の森にとどまる個体もいれば、さらに遠くへ旅を続けるものもいます。
カケスは全長30cmほどの中型の鳥で、カラスの仲間です。日本では屋久島より北の地域なら、どこの森でも姿を見るチャンスがあります。北海道にすむのは、「ミヤマカケス」という亜種で、本州などのカケスとは目や頭の色が異なります。ただ、どちらにも共通しているのが、翼にあるコバルトブルーの羽。日光を浴びてキラリと光るその瞬間は、まるで森に舞い降りた青い宝石のようで、ちらっと見えただけでも幸せな気分になります。
カケスは雑食性で、昆虫や木の実などさまざまなものを食べますが、特に大好きなのがドングリです。昔の人はそんなカケスの好みをよく知っていて、ドングリがなる樫(かし)の木にちなんで「樫鳥」と呼んでいました。
秋になると、森にはミズナラやコナラなどの木にたくさんのドングリが実ります。カケスはそれらを冬の食糧として、地中や木の穴など、あちこちにかくして貯える習性があります。しかし、貯えたすべてのドングリを食べるわけではありません。使われずに残ったドングリのいくつかは、やがて芽を出し、木へと成長します。つまりカケスは、自分のために食べものを貯えているつもりが、結果的に森を育てているのです。ドングリの木は将来、またカケスの食べものを実らせますから、彼らは自然の中で持続可能な暮らしを営んでいるともいえます。自然の仕組みというのは、本当によくできているものですね。
そんな賢い暮らしをしているカケスですが、もうひとつ、とても興味深い習性があります。それは「鳴き真似」です。ふだんは「ジェージェー」と濁った声で鳴きますが、それとはまったく違う、他の鳥の鳴き声を真似ることがあるのです。
なかでもよく真似をするのがタカの仲間の声。私も実際に、オオタカやサシバ、ツミといったタカの鳴き声を完璧にコピーしているカケスに何度か出会いました。その完成度の高さといったら本家そっくりで、思わず「おっと、サシバがいるぞ」と本気で身構えたほどです。ところが、声のする場所は高木の中間あたりで、普通ならサシバがとまっていそうにない場所。おかしいなと思いながら双眼鏡で丹念に探すと、視界に飛び込んできたのは青い羽のあるカケスで、まんまと騙されたことに気がつきました。
では、なぜカケスはわざわざタカの声を真似るのでしょう? 「ここにはタカがいるぞ。近寄るなよ」と他の鳥に警告しているのでしょうか。それとも、食べものを横取りするためのしたたかな作戦なのか――。残念ながら、その理由はまだはっきりとはわかっていません。もし、カケスにインタビューができたのなら、ぜひ「なぜタカの声を真似するの?」と聞いてみたいものです。

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
