こんにちは。和菓子文化研究家のせせなおこです。
ようやくやってきた秋、皆さんはどんな瞬間に秋を感じますか?長い夏が終わり、待ち侘びていた季節なのに、私はなぜかこの時期になると少し寂しい気持ちになります。寒い冬がやってくるからなのか、1年の終わりを感じるようになるからなのか。春や夏のパステル・ビビットな色合いに比べて、モノトーンな色味が増えるのもその原因の一つかもしれません。そんな少し心が静かになる季節に、温かいお茶とお煎餅を味わうのが私の楽しみ方です。冷たい飲み物ばかり飲んでいた夏に比べ、温かいお茶をおいしいと感じられるようになると、さみしい心も暖かくなります。
そんなわけで今回の主役は「お煎餅」です。皆さんは「お煎餅」と聞くと、どんなお煎餅を思い浮かべるでしょうか?
実は、お煎餅には2つの種類があります。1つはお米から作られるお煎餅。醤油が塗ってあったり、海苔が巻いてあったり、バリバリと歯ごたえがあるもの。ちなみに私はザラメがついたものが好きです。元々は残ったお米や固くなったお団子を焼いたのが始まりで、広く知られるようになったのは意外にも大正時代以降と、比較的最近です。
もう1つは小麦から作られる甘いお煎餅。特に西日本ではこちらのお煎餅が多く、落花生やそら豆が入ったものもあります。こちらのお煎餅は、お米から作られるお煎餅に比べて長い歴史があります。一説によると、800年ごろに中国でお煎餅を食べた空海がおいしさのあまり、製法を習い日本に持ち帰ったのが始まりだとか。
昔、和菓子屋さんで小麦煎餅を作るところを見せてもらったことがあります。ずらりと鉄板に並ぶ、焼く前のお煎餅。オーブンに入れて、しばらくするとふわっと香ばしい香りが広がります。職人さんがヘラをとると、せんべい一列分を一瞬にして鉄板から剥がしていきます。薄い煎餅のはずなのに、割れずに美しく仕上がるその瞬間は、まさに職人技。その手さばきに思わず息をのんでしまいました。
さらに瓦煎餅や南部煎餅など、各地方にも特色のある煎餅が存在しています。各地域でこうして職人さんが作っているのだなと想像すると、お煎餅一枚にも物語があるのだと愛おしく思います。昔は地味なお菓子だと思って滅多に食べなかったお煎餅も、最近ではなんだかホッとさせてくれる相棒のような存在になっています。食べてワクワクする華やかなお菓子も、お煎餅のように心落ち着かせてくれるお菓子も。気分や季節に合わせて選べる種類の豊かさは、和菓子の魅力の一つだなと感じています。

