冬の気配が濃くなる12月、体をやさしくいたわる食材として重宝されてきたのが「長芋」です。
すりおろせばさらりとしたとろろに、火を通せばほくほくとした食感に変わり、古くから滋養に富む大地の恵みとして親しまれてきました。
山の力をいただく食材
長芋や自然薯などのヤマノイモの仲間は、日本では縄文時代の遺跡からもデンプンの痕跡が確認されており、古くから食されていたことがわかっています。
長芋は江戸時代には各地で栽培が広まり、その健康効果も知られるように。『本朝食鑑』(1697)には、胃や腎を健やかにととのえる滋養食として紹介されています。
江戸時代には、東海道の鞠子宿にある丁子屋という茶屋の名物として「とろろ汁」が有名になり、松尾芭蕉の句にも詠まれたほど。今に至るまで、東海道を行き来する人々のお腹を満たしてきました。
すりおろしたとろろにすまし汁を加えた「とろろ汁」は『日葡辞書』(1603)にも名前が見え、江戸時代以前から親しまれてきた料理のようです。現代の私たちにも、なじみ深い、よく知られた一杯ですね。
ヤマノイモの仲間いろいろ
同じヤマノイモの仲間でも、長芋・つくね芋・自然薯などさまざまな種類があります。
スーパーなどでよく見かける長芋は、ヤマノイモの中で最も知られた山芋でしょう。細長い形で水分が多く、すりおろすと粘り気が少なくさらっとしています。生で食べてもサクサクとした歯ざわりがよく、味にもクセがないため、扱いやすいのが特徴です。
丸くごつごつとした形のつくね芋は、とろろにすると粘りが極めて強く、もちもちと力強い食感になります。とろろの粘りを活かして、薯蕷饅頭などの和菓子に使われることも多いです。呼び名は地域によってさまざまで、つくね芋、大和芋、山の芋などと呼ばれることも。
日本原産の山芋として知られる自然薯は、長芋よりも細長く、香りが豊かなところが魅力。とろろは粘度が高く、古くから山の薬として珍重されてきました。現在は天然物だけでなく栽培も行われています。
これらのヤマノイモの仲間は、それぞれの特徴に合った料理に活用され、愛されてきました。
ジャガイモやサツマイモなど、多くの芋は生食では消化不良を起こしやすいため、加熱して食べるのが一般的ですが、ヤマノイモの仲間はジアスターゼという消化酵素が豊富なため、生でもおいしく食べられるのが最大の特徴です。定番のとろろも良いですが、短冊に切って醤油をたらすだけでも、長芋の食感を活かした一品ができますので、ぜひお試しください。
長芋は寒さに向かう季節に「山の滋養」を届けてくれる野菜として、昔から重宝されてきました。するすると喉を通りやすいとろろは体を労わり、冬に不足しがちな食物繊維やビタミンB群も補えます。師走の忙しさで疲れやすくなるこの時期、積極的に取り入れて、日々の健康をサポートしたいですね。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
