クリスマスを彩る植物といえば、モミ、セイヨウヒイラギ、ポインセチア、そしてヤドリギ(宿木、寄生木)です。地に根を張らず、高い木の上に宿り、真冬でも枝葉を青々と茂らせ、実をつけるヤドリギは、古今東西、「聖なる植物」として信仰されてきました。
英語名は「ミスルトー(mistletoe)」
ヤドリギは、ビャクダン科ヤドリギ属の常緑低木で、樹高は40~80㎝。ケヤキ(欅)やサクラ(桜)など、主に落葉広葉樹の幹や枝にくっつき、宿主の水や養分を吸収しながら成長する寄生植物です。ただし自らも光合成を行うため、「半寄生植物」とも呼ばれます。
ヤドリギの特徴は、黄緑色の枝や葉が、 寄生した枝や幹を囲むようにして丸い形状となること。冬に入り、宿主の落葉樹が葉をすっかり落としてしまうと、まるで鳥の巣のように樹上高くこんもりと茂るヤドリギは、よく目立ちます。
原産地はヨーロッパおよびアジアで、日本では北海道から九州に分布。日本をはじめ東アジアに自生するヤドリギは、セイヨウヤドリギの亜種とされ、果実が薄黄色をしています。欧米でクリスマスのリースなどに使われるセイヨウヤドリギの果実は乳白色で、英語名は「ミスルトー(mistletoe)」です。
ヤドリギは「神が宿る木」
日本でも、ヤドリギは常緑の「常盤木(ときわぎ)」として尊ばれ、祝賀の席に飾られました。古名は「保与(ほよ)」。奈良時代の歌人で、『万葉集』編纂者の一人・大伴家持(おおとものやかもち/718年頃~785年)は、正月の宴に次のような歌を詠んでいます。
挿頭(かざし)つらくは 千年(ちとせ)寿(ほ)くとぞ――『万葉集』第18巻 4136番
(現代語訳:山の木の梢に生えているヤドリギを折り取って、髪飾りにして挿したのは、千年の長寿を祈ってのことです)
花や葉を髪に挿すのは、植物の呪力をわが身に移すための儀式です。当時よりヤドリギは、不老長寿と生命力の象徴だったのでしょう。「保与」の名も、樹木の高い枝の上に育つ独特の姿から、神あるいは天狗が降りてきて「宿る木」の意という説があります。
ネバネバとした果肉に包まれた種子
ヤドリギの枝は緑色の円柱状で、柔らかくも強靭です。2~3つに分岐しながら伸びることも特徴の一つ。葉は長さ2~8cm、枝先にプロペラのように1組ずつ対生し、やや肉厚でゴムのような質感です。
花期は2~3月。雌雄異株(しゆういしゅ)で黄色い花を咲かせますが、径3mmほどと小さく、目立ちません。11〜12月になると、径約6 mmの球形の果実が熟します。果実の中には種子が一つ入っていて、モチのようにネバネバした果肉に包まれています。
ヤドリギの果実は、シベリアから越冬のために日本に渡ってくるヒレンジャク(緋連雀)とキレンジャク(黄連雀)という、2種類の美しい小鳥の大好物として知られています。この実を鳥が食べると、消化されなかった種子がフンと一緒に排泄され、種子についたネバネバが糸を引いて近くの枝にくっつき、発芽するのです。
ヤドリギは冬至の太陽の再生と復活の象徴
欧米では、ヤドリギの下でキスをした二人は永遠に結ばれるというロマンチックな言い伝えがあります。あるいはククリスマスの夜、ヤドリギの下に立つ女性には誰もがキスできるのだとか。ヤドリギを使って「キッシングボール(Kissing Ball)」をつくり、クリスマスや新年にそれを飾り、ハグやキスを交わして愛情や友情を深める習慣もあります。
北欧神話では、光の神バルドルが悪神ロキの企みにより、ヤドリギの矢で死ぬという逸話が伝えられます。愛と美の女神フリッガは息子の死を嘆き悲しみ、その涙がヤドリギの実に変わると、バルドルは死から蘇るのです。それ以来、ヤドリギは「愛の樹」として女神フリッガに捧げられ、ヤドリギの下を通る者にはキスを与えなければならないのだとか。
古代ヨーロッパにおいて、ヤドリギは冬至における太陽の再生と復活の象徴。その習俗が、後からきたキリスト教の聖誕祭=クリスマスと融合したのでしょう。
花言葉は「忍耐」「困難に打ち克つ」「キスしてください」
花言葉の「忍耐」「困難に打ち克つ」は寒い冬でも葉を茂らせ、果実をつけることから。「キスしてください」はクリスマスにまつわる言い伝えから生まれました。
冬の寒さに凍えた森の妖精たちは、常緑のヤドリギを頼ってその枝に移り住むという民間伝承もあります。ヤドリギの枝を家に吊るすことは、妖精たちを家に招き入れることになるのだとか。
年末年始にはぜひヤドリギを飾り、その不思議な魔力を感じてみてはいかがでしょうか。
ヤドリギ(宿り木、寄生木)
学名: Viscum album
英名:Mistletoe
ビャクダン科ヤドリギ属の常緑低木。主に落葉広葉樹を宿主とする半寄生植物。北海道から九州に分布。ヨーロッパ原産で果実が乳白色のセイヨウヤドリギの亜種とされ、果実は薄黄色。枝葉が、 寄生した枝や幹を囲むようにして丸い形状となる。11〜12月、球形の果実が熟し、種子は粘る果肉に包まれる。英語名は「ミスルトー(mistletoe)」。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
