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コロッケ

旬のもの 2026.04.09

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「コロッケ」についてのお話です。

春の柔らかな光が差し込む朝、燕の鳴き声に起こされて私の一日は始まる。離れにある部屋から母屋に向かっていると、台所から香ばしい揚げ物の匂いがすん、と鼻に入ってきた。扉をがらがらと開けると、台所の母がフライヤーでコロッケを揚げながら「おはよう」と迎えてくれる。「今日も一日が始まるんだな」と実感させてくれる、我が家のルーティンだった。

学生時代、母は毎朝お弁当を持たせてくれた。その主役としてよく登場したのが「コロッケ」だ。
大体は市販の冷凍コロッケ。フライヤーを開けて冷凍のまま油に落とすと、霜が溶けてバチバチバチッと勢いの良い音が響き渡る。油の匂いが台所中に漂うので、「制服に匂いがついてないかしら」と少し不安になりながら朝ごはんを食べたものだ。

母が詰めるところを横で見ていたので、中身は概ね分かっていたが、それでもお昼にお弁当の包みを解く瞬間は、どこか心がホクホクする。
コロッケはいつも、半分に切って詰められていた。じゃがいもがたっぷりの断面。食べると少し濃いめだが、裏切らない王道の味付け。揚げたてのサクサク感とはまた違う、しっとりとした衣も、お弁当ならではの醍醐味だ。それが白ごはんによく合い、食べ盛りの高校生には最高のおかずだった。ほぼ毎日入っていたが、「またか」と思った記憶は一度もない。

今では家族のお弁当を作る立場になった。春のお弁当には、なぜか無性にコロッケを入れたくなる。忙しい朝、夫のお弁当は冷凍コロッケに頼ることも多いけれど、余裕のある時には「今回は作ろうか」と腕をふるう。

出回り始めた新じゃがを洗ったら切って、皮付きのまま蒸す。なるべく温かいうちに皮をむいたら、ざっくりとつぶす。中の具材は、新玉ねぎを生のまま入れたり、春キャベツやごぼうに変えてみたり。そしてみずみずしい新じゃがの香りを閉じ込めるように薄く衣を纏わせて、カラリと揚げる。油の中でシュワシュワを軽やかな音を立てて、徐々にきつね色になっていく。立ち上がる香ばしい匂いに、思わず喉が鳴る。

今思えば、忙しい朝にわざわざ油を温め、揚げたてを持たせてくれることが、どれほど贅沢で根気のいる愛情だったのだろうか。
環境が変わる春、新生活の緊張で心はどこか、ギシギシとぎこちない。そんな時、カバンの中にある「いつものお弁当」は、私にとって何よりのお守りだった。
あの香ばしい油の匂いは、強張った心と体を解きほぐしてくれる、私にとって心の潤滑剤だったのかもしれない。

あたたかい陽気と共に、スーパーの店頭にも、新じゃがや春の野菜が並び始めた。春の喜びを携えた野菜たちを料理するのは、心が弾むものだ。この春もお弁当にコロッケを詰めて、軽やかに歩き出していこう。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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