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そら豆そらまめ

旬のもの 2026.05.08

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やわらかな緑色のさやが、空へと向かってすっと伸びる。そんな姿から「空豆」と名づけられたそら豆は、立夏のころを告げる、春の終わりから初夏の食卓を彩る野菜です。瑞々しくも青々しいその味は、季節を食べるような喜びをもたらしてくれます。

そら豆の白と紫のコントラストが映える花や瑞々しい豆の姿も描かれている。(『本草図譜』 出典: 国立国会図書館デジタルコレクションより)

遥かな旅路を経て、日本の食卓へ

そら豆の歴史は古く、北アフリカや西南アジアを原産とし、古代エジプトやギリシャでも栽培されていた記録が残っています。日本へは、奈良時代にシルクロードを経由して中国からもたらされたという説がありますが、その真偽は定かではありません。

江戸時代後期の本草学者・岩崎灌園が編んだ日本初の本格的な植物図鑑『本草図譜』(1828)には、「菽豆類」の頁に収録されており、黒い斑紋を持つ白い花などが、色彩豊かに描かれています。江戸時代になると次第に庶民へも広まり、塩茹でにして相撲観戦のおつまみにするのが流行ったとも伝えられています。

さやが空へ向かってまっすぐに伸びるそら豆。その凛とした姿が、「空豆」という名の由来です。

名前に秘められたふたつの意味

そら豆は漢字で「空豆」とも「蚕豆」とも書きます。「空豆」は、さやが天に向かって直立して実ることから。「蚕豆」は、ふっくらしたさやの形が蚕の繭に似ていることと、ちょうど蚕が繭を作るころに食べごろを迎えることに由来するといわれています。また地域によっては「夏豆」「野良豆」「四月豆」「唐豆」など様々な呼び名があり、各地でいかに親しまれてきた食材かがうかがえます。

さやを開くと、ふわふわとした白い綿に包まれた豆が現れます。この産着のようなやさしさも、そら豆の魅力のひとつ。

旬と産地 日本一の鹿児島から

そら豆の旬は春から初夏にかけて。生産量日本一の鹿児島県では、温暖な気候を生かした秋まき春どり栽培が盛んで、早ければ十二月ごろから出荷が始まります。続いて千葉県、茨城県などでも多く生産されており、関東では四月から六月ごろにかけて旬を迎えます。出始めのころは水分を含んだ瑞々しい豆の味わいが、旬の終わりに近づくとほっくりと甘みが増し、それぞれの時季ならではの美味しさを楽しめます。

シンプルな塩茹でが、そら豆の青くみずみずしい味わいを最もよく引き立てます。

塩茹でから醤油豆まで、豊かな食文化

そら豆といえば、まず思い浮かぶのが塩茹でです。豆のおいしさを丸ごと味わえて、季節を感じられる一品です。さやごと焼く「焼きそら豆」も香ばしく、春の食卓を豊かにします。また、そら豆を原料にした味噌も昔から作られており、中国ではそら豆と唐辛子を原料とした豆板醤が、四川料理に欠かせない材料として知られています。

香川県に古くから伝わる郷土料理「醤油豆」。から炒りしたそら豆を甘辛い醤油だれに漬け込んだ、素朴でやさしい味です。

地域の食文化としてとりわけ興味深いのが、香川県に伝わる「醤油豆」です。乾燥したままのそら豆を、から炒りしてから、熱いうちに醤油・砂糖・みりんなどを合わせた煮汁に漬け込んで作ります。甘辛い味がしみ込んだ醤油豆は、香川の家庭では日常のおかずとして食卓に欠かせない存在で、煮豆のやわらかい食感とは異なり、ほろっとした独特の歯ごたえがクセになります。地域では、讃岐うどんと並ぶ郷土の味として今も受け継がれています。旬のわずかな時期にしか楽しめないそら豆の瑞々しいおいしさを、今のうちにたっぷりと味わいたいものです。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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