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鱧料理はもりょうり

旬のもの 2026.07.01

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「鱧料理」についてのお話です。

いよいよ本格的な暑さが加わり、京都に本場の夏がやってきた。それと同時に、スーパーの鮮魚コーナーには、美しく骨切りされた鱧が活気よく並び始めた。「今年もこの季節がやってきたなあ」と手に取り眺めていると、ふと、先日故郷へ帰省した時のことを思い出した。

私の実家は、瀬戸内海に面した山口県にある。海の幸がとにかく豊富で、普段なら帰省すると、母は「これでもか」というほど熱心に魚料理を振る舞ってくれていた。しかし、今回は、食卓に魚が登場する頻度が随分と控えめだった。
不思議に思って理由を尋ねると、母は苦笑いしながらこう言った。
「こっちの魚はねぇ、京都の祇園祭が終わるまでは、みんなあっちへ行くんじゃって。あっても、高くて手が出んのよ」

山口県は全国でも五指に入る鱧の一大産地。なかでも瀬戸内海で育つ鱧は身が肥えて骨が柔らかく、京都の市場でも重宝されている。
特に七月は、祇園祭で京都の街は熱気に包まれる。料亭や家庭での鱧の需要は爆発的に跳ね上がる。京都の市場は何が何でも良質な鱧を確保するため、全国から集まる最高峰の鱧を、どこよりも高い価格で競り落とす。そのため、山口の地元に出回る数は一時的に減り、価格もつられて上がってしまうというのだ。

地元の穏やかな海が、遠い京都と繋がり、街の熱気を裏で支えている。母は「高くて買えん」と肩をすくめつつも、地元の自慢の魚が、晴れの舞台へと旅立っていくことに、どこか誇らしげであるようにも見えたのだった。

さて、京都の我が家のキッチンに戻り、買ってきた鱧を前に考える。何を作ろうか。
鱧料理の三大定番といえば、牡丹の花のように美しい「湯引き」、職人技の光る「お椀」、そして衣がサクサク、身はフワフワの「天ぷら」。どれも京都の夏を彩る「ハレの味」だ。これらはプロの料理屋さんに任せて、外でじっくり味わいたい。というのが、私の本音でもある。
おうちで手軽に楽しむなら、と私は「鱧の蒲焼き」を作ることにした。

スーパーで綺麗に骨切りされた鱧の切り身に、軽く片栗粉をまぶす。フライパンに油をひき、まずは皮目からカリッと香ばしく焼き上げる。ひっくり返して身にも火を通し、仕上げに醤油、みりん、酒、砂糖を合わせた甘辛いタレをまわし入れ、とろりと身に絡めれば完成だ。
うなぎよりもあっさりとしていて、それでいて奥深い鱧の旨味がタレによく合う。これをご飯にのせれば「鱧の蒲焼き丼」。もう少し京都らしく、はんなり仕上げたければ、山椒をひと振り。すると、たちまち食卓が贅沢な夏の特等席に早変わりする。

遠い山口の海で立派に育ち、京都まで旅してきた鱧に思いを馳せながら、一口いただく。
「私もこの京都の地で、また一から頑張っていこう」
はるばる海を渡り、京都の夏を沸かせる鱧の姿に、今の自分を少しだけ重ね合わせた。

次の帰省は、祇園祭の喧騒が落ち着き、地元の市場に手頃な鱧が並ぶ頃になりそうだ。今度は私が美味しい鱧を買って、母に鱧料理を振る舞ってみよう。そう決めて、香ばしい夏の味を、大切に味わったのだった。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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