こんにちは。師走ということで、毎日走り回っています。僧侶でライターの小島杏子です。
ちょうど1年前には想像もしなかったような日々を過ごしてきました。それぞれが、自分の場所でふんばってきた1年です。悲しい、苦しい、楽しい、嬉しい……言葉にできない気持ちもたくさんあったのではないでしょうか。
1年の最後にそれらを振り返る。自分はいったいどういう姿であったのだろうと省みる。そして、お寺の本堂で手を合わせ、鐘をつき、よっこらしょと新しい年へのあゆみを踏み出す。それが今日のテーマ「除夜の鐘」という行事です。
「除夜」には、「去年と今年を除(わ)ける夜」「旧年を除く」という意味があるといわれます。「除日の夜」、「除夕」とも表現されます。そして、除夜にお寺でうつ鐘が、除夜の鐘というわけです。
「除夜の鐘」とは通称で、これは正確には「除夜会」という法要のことです。お寺によってやり方はまちまちですが、仏さまの前で手を合わせ、お経をお唱えします。そして鐘楼で鐘をつく。お蕎麦や甘酒、おぜんざいなどの接待があるお寺も多いですね。
お寺における除夜会の意味は、この1年を歩んでこられたことへの感謝、はからずも重ねてきた罪の自覚、そしてこれからはじまる新しい1年へと踏み出していくところにあります。そういう節目のための行事なのです。
除夜会でつく鐘の数は108が基本です。実際には108ぴったり鐘をつくお寺もあれば、参られた方の数だけ鐘をつくというお寺、全く数えないお寺もあります。
この108という数は煩悩の数であるといわれます。なぜ108という数字が導き出されたかには、諸説あり、これはとても興味深い計算式なので、気になる方は調べてみてください。とはいえ、あまり数にこだわるべきではなく、私たちは数え切れないほどの煩悩を抱えて生きているのだと知ることがなにより大切なのです。
お寺に限らず、1年のおわりにはさまざまな区切りの行事やしきたりがあります。地域や各家庭によっても独自の文化があるのではないでしょうか。いずれにしても、人には「区切り」というものが必要なのだということかもしれません。
除夜会にはいつもたくさんの方々がお参りに来られます。帰省した若者たち、いつもは寝ているような時間にお出かけするのが嬉しくてたまらない子どもたち、何年も家族揃って(犬も連れて)参られる方、一人で参って来られる方も。
一方、以前は来られていたのに足元がおぼつかないからと参るのをやめた方、またこの1年のあいだに亡くなられて姿を見ることができなくなった方。毎年定点観測のように眺めていると、変わらないものなどないのだと思い知らされます。
お寺には仏さまの像がご安置されています。お寺によって異なる仏さまが真ん中にいらっしゃるかもしれませんが、共通して言えることは、誰かが自分を案じるまなざしがあるということです。
人は1人で生まれ、1人で死んでいかねばなりません。孤独は拭えない。けれど、その孤独を一緒に抱えようじゃないかという存在はいるはずなのです。それが仏教徒にとっての仏さまです。
いま自分のそばにあるぬくもり、かつてより自分に注がれてきたまなざし。1年にたった1度の大晦日、除夜の鐘の響きのなかで、思い返してみてはいかがでしょうか。
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