染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…。様々な色に美しい名前がつけられてきました。今回は、その中から「墨色(すみいろ)」についてご紹介します。
憲法黒(けんぽうぐろ)、鈍色(にびいろ)、空五倍子色(うつぶしいろ)など、黒系の色のお話をいくつかご紹介させて頂きました。それらは檳榔樹(びろうじゅ)や矢車、五倍子などタンニン酸を含む木の実などの茶系の色を鉄分で発色させて生み出されています。もう1つ、東洋の国々では「墨」という重要な黒色があります。
「墨」を表す漢字は「黒」と「土」から成り立っています。日本では、縄文時代に縄文土器や土偶などが沢山作られ、その時代には火を操り、暖を取り、煮炊きをし、土器を焼いていました。土器を使って調理をすると、その底や、洞窟内の天井などに煤が溜まります。それをかき集めて色材となることを彼らは発見したのでしょうか。縄文土器には時折意図的に黒く彩色されているものが見つかっていますし、墨書土器も発掘されています。こうした煤を使った黒色の発見は、極めて古いと考えられます。
さて、「墨」自体は漢代に中国で発明されています。煤の元になる燃やす木材を、松や桐など脂分を多く含む樹木を使い、その煤を集めて、膠(にかわ)と呼ばれる動物や魚の骨や皮の内側に含まれるゼラチン質で固めるという方法が用いられていました。
記録上では『日本書紀』に、7世紀に推古天皇がご在位の頃、同じく中国で発明された紙と共に、高句麗の僧曇徴(どんちょう)によって日本へもたらされたと伝えられていますが、実際にはそれ以前にすでにその製法が伝来していたのではないかとも考えられています。
墨は、書や絵画の材料として、加えてこの時期は仏教が伝来し、写経に欠かせないものとして重要なものとなりました。唐代からはじまったとされる墨の濃淡やぼかしを用いて描く水墨画は、雲竜図など一目みると墨の濃淡であるのに、目の奥深くには、一色一色が細やかに見えるような極彩色があるように喩えられ、それ故に「墨に五彩あり」と言われるようになりました。墨をすって、描く色は全て墨色と呼ばれますが、一言に墨色といっても、水の含ませ方、筆の動きなどによって色合いは無限にあります。
奈良県では今も墨の伝統的な製法が守り続けられています。松を燃やして出来た煤を集めて作られた松煙墨(しょうえんぼく)が代表的で、その中には青みを強く帯びるものもあり、これを「青墨」と呼んで珍重されています。
真っ黒な煤に、膠を溶かしたものを練り合わせて、それを木型にいれて成型します。そのまま乾燥させるとひび割れが起きる可能性があるので、湿り気のある木の灰のなかで乾かし、その後稲藁でくくって天井から吊るし乾燥させて完成となるそうです。乾燥の期間は早いものでも3カ月、良質なものは数年寝かされるとのことで、美しい墨色を生み出す墨は大変な手間と時間をかけて作り続けられているのです。
吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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