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日本の色/牡丹色ぼたんいろ

にっぽんのいろ 2026.04.26

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染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な美しい色の名前がつけられてきました。今回は、「牡丹色(ぼたんいろ)」についてご紹介致します。

今年は春の訪れが早く、例年より桜の花を楽しむことができました。住まいの近くにソメイヨシノより少し遅く、開花の長い牡丹桜の木が何本かあるのですが、花弁が幾重にも重なりふっくらと咲く姿が愛らしく、華やかな印象です。牡丹桜の名の由来は、春から初夏にかけて大振りの花びらを重ねるようにして、大輪の花を咲かせる牡丹に由来しています。

牡丹色 写真提供:紫紅社

後水尾天皇の遺した歌に

思へどもなほあかざりし桜だに忘るばかりの深見草かな

がありますが、深見草とは牡丹の異名で、牡丹の花の、桜さえ忘れるほどの美しさを詠っています。牡丹は中国が原産で、ごく薄く織られた絹の布を何枚も重ねたかのような妖艶な花の姿は、「百花の王」「花王」「花神」とも呼ばれ、唐時代に則天武后が宮中に植えることを命じたことから、「富貴の花」とも形容されていました。

牡丹には白や濃紅色、少し紫がかった紅色などの花の色がありますが、特に濃い紅色を「牡丹色」と称していました。牡丹色の色見本は、紅花で濃く染めた後にわずかに紫根で紫を染め重ねて、あでやかな牡丹の花色をあらわしています。

牡丹の根の皮の部分に血流をよくする効果があり、主に女性に処方されていました。根の部分にその効能を多く持たせるために、花が咲く前の蕾の状態で取りのぞくそうなので、薬用と観賞用に分けられていたようです。

牡丹の花色 写真提供:紫紅社

牡丹が日本に到来したのはこの薬用としてが先で、観賞用として愛でられるようになった時代ははっきりしないのですが、清少納言が記した『枕草子』には、

参りてみ給へ。あはれなりつる所のさまかな。対の前に植ゑられたりける牡丹などの、をかしきこと。

と、中宮定子が、後ろ盾をなくし、二条に住まいを遷しても気品高く牡丹を愛でて暮らしている様子が描かれています。

中国から日本に到来した時期も所説あるのですが、個人的には飛鳥時代ではないかと考えています。『日本書記』に612年、推古天皇の時代に百済人味摩之(みまし)によって伝えられたと書かれている、伎楽に牡丹の花が登場します。

伎楽とは音楽にのせて仮面を被った人が演じる無言劇で、飛鳥時代から奈良時代にかけて奈良の大寺で法会の際に行なわれた芸能です。その中に「獅子奮迅」という演目があるのですが、宴会でお酒に酔った「酔胡王」が、眠れる獅子を起こしてしまい、お酒を飲ませてしまったために暴れまわる獅子を落ち着かせるために様々な策を講じます。なかなか落ち着かない獅子に、最後に牡丹の花を咥えさせるとようやく落ち着くというストーリーなのですが、この獅子と牡丹という組み合わせは、やがて力と美、動と静といった相反する陰陽のモチーフとして用いられるようになります。

伎楽 暴れる獅子に牡丹の花を与えて鎮める 写真提供:吉岡更紗

染司よしおかでは東大寺や薬師寺で法要の際に演じられるこの伎楽の衣装を、正倉院宝物などを参考に再現させて頂きました。牡丹の花も薄い絹布を紅花を用いて牡丹色に染めて、幾重にも重ねて造りました。

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吉岡更紗

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

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