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日本の色/今様色いまよういろ

にっぽんのいろ 2026.01.29

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染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な美しい色の名前がつけられてきました。今回は、「今様色(いまよういろ)」についてご紹介致します。

日本の色は、季節に咲く草木花の名前がついていたり、漢字や読みがなで、なんとなくこのような色なのかしらとイメージが沸いたりすることが多いのですが、その中で「今様色」は稀有な存在なのかもしれません。「今様」という言葉は、今はやりの、いわゆる流行という意味合いを持ちます。平安時代からこの言葉は使われていたそうで、「今様色」とは平安時代の貴族に大変好まれた色であるといえます。

今様の襲

平安時代の流行色がどんな色であったかということには諸説があり、後の室町時代後期に成立した『胡曹抄』には、「今様色とは紅梅の濃を云う也」、『源氏男女装束抄』には「今様色は紅のうすき、ゆるし色をいへり」とあり、紅花を使って染められた紅(くれない)系統の色であることは想像できるのですが、これらの文献から見ると、それぞれ濃さが違うような印象があります。

平安時代に描かれた『源氏物語』にもこの今様色が登場しますが、「玉鬘」の帖で、新年を迎える前に光源氏が紫の上に、「紅梅のいと紋浮きたる葡萄染の御小袿、今様色のいとすぐれたる」衣装を選び贈ります。

『源氏物語』「玉鬘」葡萄染の御小袿に今様色のいとすぐれたる

光源氏はその時に、出家をしている空蝉に「梔子の御衣、ゆるし色なるそへたまひて」を贈っているので、「今様色」と「ゆるし色」は別の色という風に考えてもよいのかもしれません。また「紅梅色」も平安時代には大変好まれた色であり、『源氏物語』のなかにも紅梅の花色にふれた記述があります。

ゆるし色、紅梅色、今様色はそれぞれ紅花の花びらを使って染色されてきました。紅花は遠くエジプトからシルクロードを東に進み中国を経て、3世紀には日本に伝わっていたとされています。濃い紅色を染めるにはかなりの量が必要で、『延喜式』「縫殿寮」によると、こちらも濃い紅色である「韓紅」に染めるには6kgもの紅花が必要と書かれていて、一方ゆるし色は別名一斤染とも言われ、一斤(約600g)だけ使った淡い紅色で、尼君や位の低い方でも着ることをゆるされた、という色です。

稲藁を燃やした灰に湯を入れて灰汁をつくる

紅花の中に含まれている赤の色素は5%程度で、大半が黄色の色素です。その黄色は中性の水に流れやすい性質を持っているので乾燥した紅花を水につけてかき回し、何度も水を換えて洗い流します。赤い色素はアルカリ性のもので揉むと溶け出てくるので、稲藁を燃やした灰でとった灰汁で、揉む作業を行います。そしてそこに酢を加えて中性に戻し、布を入れて染めていくのですが、1人で揉める紅花の量はおおよそ2㎏程度なので、その作業で抽出した赤の色素では、それほど濃くはなりません。

紅花を灰汁で揉むと赤い色素が抽出される

濃い色と想定される今様色にするには、その作業を数日繰り返す必要があるのです。色見本は3日間同じ作業を繰り返して染めたものです。

今様色

平安時代には、紫草の根で染める紫と、紅花で染める濃い紅色は非常に珍重されたと考えられるので、今様色は高貴な方のみが纏うことのできる、非常に濃い紅色だったのではと私は考えています。流行色といいながら、それを身につけられた方は限られていた、憧れの色だったのでしょう。

写真提供:紫紅社

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吉岡更紗

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

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