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日本の色/胡桃色くるみいろ

にっぽんのいろ 2026.10.27

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染織家の吉岡更紗です。
朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な美しい色の名前がつけられてきました。今回は、「胡桃色(くるみいろ)」についてお話しさせて頂きます。

写真提供:紫紅社

今年は雨や台風の多い秋となりましたが、日毎に季節は進み、工房の庭に植えられた木々の青々としていた葉の色が青朽葉色となり、そして少しずつ黄色に色付きはじめています。もう少し気温が下がると柘榴(ざくろ)や胡桃の木に実がなりはじめ、次第に大きくなっていきます。
胡桃の木は、戦後に祖父が植えたもので、昔から日本に自生しているオニグルミの古来種だと聞いております。初夏には藤のような花をつけ、秋になる4つから8つほどの緑の実が固まって実ります。青々とした実が熟すと、1つずつ下に落ちてくるのですが、時折、工房のトタン屋根に当たることがあります。実がとても堅いためか、その音があまりに大きいので、来客があるときには大変驚かれるのですが、私もその音がする度に今年も秋が来たな、と思います。

写真提供:吉岡更紗

胡桃はナッツの一種として、炒ったものを乾燥した状態で売られているので、よく口にしていらっしゃる方も多いと思いますが、それは胡桃の実そのものではなく、実の中にある種の殻を割って得られる「仁(じん)」という部分です。(梅の実で言うと昔はこの部分を「天神様」と呼んでいました。)
胡桃のこの仁部分が、非常に栄養豊富なことから、いにしえから食されていたといわれており、青森県にある縄文時代の集落である三内丸山遺跡で、胡桃の種の殻がたくさん出土しています。中には、樹皮を使って編まれたポシェットのような小さな袋の中に、胡桃の実が入ったまま発見されたものもあります。この時代は狩猟採集をして食料を調達していますので、実を見つけるとその編み袋に、たくさんの胡桃を次から次へと入れたと考えられています。

写真提供:吉岡更紗

胡桃の実には、種を守るためにタンニン酸といわれる渋が豊富に蓄えられています。果実を拾うと、茶褐色の粘りのある液が手についてなかなか取れません。当時の人々は、詰め込まれた実が重なりあって、その粘りのある液が編み袋につくことにより、茶色に「染まる」ということを見つけたのかもしれません。そして、その色を持つ粘り気のあるタンニン酸には繊維を丈夫にする効果と耐水性があることも、併せて体得していったのでしょう。
染織の技術は絹と共に中国から伝わったもの、とされていますが、それが伝わる前から日本に暮らす人々も、朱や弁柄などの顔料や、煮炊きする際に土器についた煤から墨のようなものを使い彩色するということを行っていました。木の実のもつタンニン酸の色素を用い繊維を彩るということも、同じ頃から始まっていたと考えられます。

写真提供:紫紅社

種の中の栄養豊富な仁は食し、その周りを包む果実、果皮の部分を煎じて染めると、やや赤みのある薄茶色に染まります。団栗や栗のような木の実も、同じくタンニンを持っていて茶系の色合いに染めることができるのですが、胡桃の実は、赤味があるのが特徴的です。奈良時代に遺された『正倉院文書』にも「胡桃紙」という記述があり、紙を染めるのにも使われていたという記録があります。胡桃色は長い歴史の中で愛されていた色であると言えるでしょう。

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吉岡更紗

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

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