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日本の色/青朽葉あおくちば

にっぽんのいろ 2026.09.30

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染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な美しい色の名前がつけられてきました。今回は、「青朽葉(あおくちば)」についてお話しさせて頂きます。

青朽葉 写真提供:紫紅社

京都は9月後半になると、台風や長雨の影響で気温が下がりはじめ、ようやく秋の気配が感じられるようになりました。
秋の始まりとされる立秋は暦の上では8月上旬で、現代では真夏の盛りですが、緑をたたえていた銀杏の葉の色がわずかに黄味がかってきたり、田で伸びゆく稲穂が色づいてきたりしている様子が伺えます。日本の秋は、長くなってしまった夏の間にゆっくりと、そしてゆるやかに訪れるものなのだと実感します。中秋の名月も残念ながら曇り空でしたが、2日後の満月の日には、雲のなかにぼんやりと浮かぶ月の美しさに見入ることが出来ました。

9月27日満月 写真提供:吉岡更紗

「青朽葉」の「朽葉」とは、文字のとおり葉が次第に色相を変え、風に揺れて落葉し、朽ちてゆく葉の色の移り変わりを表していますが、古来、「青朽葉」「黄朽葉」「赤朽葉」「朽葉」「濃朽葉」「中朽葉」「淡朽葉」など総じて「朽葉四十八色」と呼ばれるほど、沢山の朽葉の色の名を生み出してきました。美しい緑をたたえていた草木の葉の色が、次第に黄色や赤に、そして様々な朽葉色へと移りゆく様を細やかに見極め、繊細に使い分けていたのでしょう。
この朽葉の色は季節的には「青朽葉」から始まると言われています。

平安時代に清少納言が書いた『枕草子』に「汗衫(かざみ)は春は、躑躅(つつじ)。桜。夏は、青朽葉(あおくちば)。朽葉。」とあります。
汗衫とは平安時代後期、貴族に使える童女が来ていた衣装の1つで、衵(あこめ・丈の短い袿)の上に重ね、後ろの丈が長く引きながら歩きます。この時代には、成人を迎える前の幼い童女の衵と汗衫の色の組み合わせにも、その季節感が感じられる、もしくは少し季節を先取りするかさねを選んでいたことが分かります。
清少納言は、立秋を迎える前の夏の終わり頃に、青々とした葉の緑が、わずかに黄色味を帯びてくる、そのわずかな瞬間を捉えた青朽葉をした汗衫を引きながら歩くさまに、秋風に揺れる葉の様を想像していたのかもしれません。

胡桃の木 写真提供:吉岡更紗

工房に植えられている胡桃の木は、まだ青々とした葉の色をしていますが、その緑色は葉緑素が形成していて、花が咲いた後に実をつける準備を始めると次第に、一葉一葉少しずつ黄味を帯びてきます。その色をあらわすために、江戸時代にかかれた『西三条装束抄』には、「経青、緯黄。有黄気、木賊色也」と書かれていて、以前ご紹介した女郎花色のように経糸と緯糸の色をかえて、その異なる色が交差することによって現れる織色で表していたこともあったようです。黄味が多い木賊色ともありますので、色見本は織色ではありませんが、蓼藍の生の葉を用いて生葉染をした後に、楊梅(やまもも)の樹皮を用いて渋い黄色を掛け合わせてあらわしています。
日々移り変わる葉の緑を見ながら、長い夏の訪れ、そして短い秋の到来を感じています。

蓼藍 写真提供:吉岡更紗
楊梅の木 写真提供:吉岡更紗
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吉岡更紗

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

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