こんにちは。僧侶でライターの小島杏子です。
寒い日が続き、外出にも気をつかうこの頃。先日、少し息が詰まるような気持ちになって、思わず仕事を中断して窓を開けました。冬の冷たい空気がピリッと肌に触れます。窓からは家の裏にある畑が見えて、しっとりとした土から冬の野菜たちが濃い緑の葉を伸ばしていました。人参、春菊、大根、芽キャベツ、プチヴェール、パセリ、壬生菜、ほうれん草……。
今日は、そんな冬の野菜を使った食べ物についてのお話。みなさんは沢庵、お好きでしょうか? ご飯やお弁当のお供である大根の香の物のことですね。
この沢庵という名前は、近世初期に実在したお坊さん沢庵宗彭和尚に由来すると言われます。とはいっても、大根の香の物そのものは、沢庵和尚が生まれるより前からあるようなので、創始者というわけではありません。
ではなぜ大根の香の物に沢庵と名がついたのか、ということについては諸説あり、あまり「これだ!」という有力な理由は見当たりません。しかし、この沢庵和尚という人、逸話に事欠かない型破りの僧侶で、民たちにもとても親しまれたようなのです。そのあたりに理由がありそうだなと私は想像してしまいます。
一時期、沢庵和尚は徳川家光の強い希望により、江戸へと迎えられました。しかし、本人はあまりお寺でじっとしている質ではなかったようで、すぐにふらふらと出て行ってしまう癖があったのだとか。彼にいなくなられては困る領内の民たちは、毎晩お寺の門に立って沢庵和尚が出ていかないよう見張る番を勤めたそうです。これを沢庵番と称したのだというエピソードが残っています
大根の香の物に沢庵と名がついた明確な理由はわからないものの、きっと民に親しまれたからこその背景があって、今日まで私たちの生活に欠かせない食べ物にその名が与えられたのでしょう。
今や市販の沢庵であれば一年中どこのスーパーでも買うことができますが、我が家では冬に自家製の沢庵をこしらえます。
畑から抜いてきた大根をざぶざぶと冷たい水で洗って泥をおとし、紐を使って4、5本ずつ大根を連ねて、風通しの良い場所につるします。数日干して水分が抜けたころ、取り外して漬物用の甕に漬け込みます。2週間後から食べはじめる一合塩(ぬかと塩の割合が9:1)のものと、夏を越してから食べる二合塩(ぬかと塩の割合が8:2)のものとにわけて、できるだけ長く楽しむのが我が家のやり方です。
お家によって漬け方や楽しみ方はまちまちだと思います。我が家では食卓で楽しむことの他にもうひとつ沢庵を作る目的があります。それは1月にある御正忌報恩講という大きな法要で、お善哉と沢庵を振る舞うという習わしです。
私が生まれ育ったお寺は浄土真宗本願寺派、いわゆる西本願寺を本山とする宗派なのですが、この浄土真宗でもっとも大きな法要が御正忌報恩講なのです。(真宗大谷派、いわゆる東本願寺では11月に行います)
御正忌報恩講は浄土真宗の宗祖、親鸞聖人のご祥月命日を縁に営まれる法要です。そして、多くのお寺ではこの法要の期間中にお善哉を食べる習わしがあります。理由は単純で、親鸞聖人の好物が小豆であったと伝えられているから。
お善哉だけでは口が甘いので、うちのお寺では沢庵を添えることになっています。寒い本堂で、甘くて温かいお善哉と、しょっぱくて噛めばパリパリ音を立てる沢庵を交互にいただくのは格別な美味しさがあります。
余談ですが、このお善哉という名も仏教に少し関係があります。日本で広く浸透した仏教は、中国を経由してきたもの。なので経典も漢文で書かれていますよね。そのなかで「善哉」、訓読みで「よきかな」と発音するこの言葉は、お釈迦様が仏弟子などに対して賞賛なさるときに登場します。
かつて小豆を砂糖で煮たものを食べた僧侶が、あまりの美味しさに「善哉(よきかな)!」と叫んだことから、この食べ物にお善哉の名前がついたという話もありますが、真偽は定かではありません。
いまの時代、沢庵も善哉も食べようと思えば一年中いつでも食べることができます。けれど、この季節だからこそ特別美味しい!この日にはこれを食べる!……という感覚も忘れずにいたいな、と個人的には思うのです。
みなさんの、「冬だからこそ特別美味しい!」や「このシチュエーションで食べるこれは格別!」というものはありますか? 良かったら教えてくださいね。
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