おはようございます、こんにちは、ライターの藤田華子です。
秋の虫が美しい音色を聴かせてくれる、過ごしやすい季節になってきました。この時期、祖母は決まって「暑さ寒さも彼岸までだね」と言います。(昨日も電話で口にしていました)

詩人・小説家の島崎藤村も、美術的な写生を散文に応用しようと試みた写生文『千曲川のスケッチ』のなかの一節「第一の花」で同じ言葉を綴っています。
「熱い寒いも彼岸まで」とは土地の人のよく言うことだが、彼岸という声を聞くと、ホッと溜息が出る。五ヵ月の余に渡る長い長い冬を漸く通り越したという気がする。その頃まで枯葉の落ちずにいる槲(かしわ)、堅い大きな蕾を持って雪の中で辛抱し通したような石楠木(しゃくなげ)、一つとして過ぎ行く季節の記念でないものは無い。
一つとして過ぎ行く季節の記念でないものは無い。
なんて素敵な季節感!初めてこの文章に触れた時、世界がキラキラ輝くように感じたのを覚えています。
前置きが長くなりましたが、今日は「暑さ寒さも彼岸まで」という慣用句についてです。
言葉のままでは、暑さも寒さもお彼岸の頃には落ち着くという意味。そこから広がり、「大変なことであってもいつか乗り越えられる。 だから諦めずに耐えましょう!」と励ましのシーンでも用いられる言葉です。類義語では、「楽あれば苦あり」「塞翁が馬」などが挙げられるかと思います。

そもそもお彼岸は年に2回、「春彼岸」と「秋彼岸」があります。冒頭で紹介した島崎藤村は、長い冬を抜けた喜びなので「春彼岸」について書いていますね。そして今の時期が「秋彼岸」。それぞれ、春分の日(3月21日頃)、秋分の日(9月23日頃)の前後の3日を合わせた1週間がお彼岸です。これは毎年同じ日付とは限らず、今年はこんな感じです。
【2022年 春彼岸】
春分の日は、3月21日(月・祝)3月18日(金) 彼岸入り
3月21日(月・祝) 中日(春分の日)
3月24日(木) 彼岸明け【2022年 秋彼岸】
秋分の日は、9月23日(金・祝)9月20日(火) 彼岸入り
9月23日(金・祝) 中日(秋分の日)
9月26日(月) 彼岸明け
春分や秋分は、二十四節気のひとつです。太陽が真東から昇り真西に沈む、つまり昼と夜の長さが同じになる日のこと。ですので、秋は9月23日の秋分の日を境に徐々に日が短くなっていき、太陽が出ている時間が短くなることで暑さが和らぐんですね。夜が長くなるということは、読書や芸術を楽しむ「秋の夜長」の幕開けです。春のお彼岸はこの逆を意味します。

お彼岸は、お墓参りに行く風習もあります。「彼岸」は、仏教では生死の海を渡ってたどり着く、煩悩や苦しみから解き放たれて自由になる「悟りの世界」。一方で、私たちが生活するこの世界は「此岸(しがん)」と呼ばれ、彼岸は西に、此岸は東に存在すると考えられています。
先ほども述べましたが、春分・秋分は、太陽が真東から昇り真西に沈む日。彼岸と此岸がもっとも通じやすくなると考えられ、ご先祖様を供養するならわしができました。お盆のように炎天下での墓参ではないので、ゆっくりとご先祖様に向けて手を合わせやすい。さらに、彼岸は煩悩や苦しみから解き放たれて自由になる「悟りの世界」。日常で思い悩むことがあっても、彼岸になれば和らぐよと励ますような意味も込められているのかもしれません。

と、ここまで書いてふと思い出したのですが、友人が秋の夜に恋の悩みを打ち明ける電話をかけてきた日、友人は語呂の良さからか「惚れた泣いたも彼岸までだから」と言ったんです。こうして考えると、意外と意味がある言葉のように思えてきました。友人あっぱれ。
これから訪れる冬に備え、心身ご自愛してお過ごしください。

藤田華子
ライター・編集者
那須出身、東京在住。一年を通して「◯◯日和」を満喫することに幸せを感じますが、とくに服が軽い夏は気分がいいです。ふだんは本と将棋、銭湯と生き物を愛する編集者。ベリーダンサーのときは別の名です。
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