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アオジ

旬のもの 2025.02.10

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

鳥の名前には、体の色に因むものがたくさんあります。例えばアカショウビン。真っ赤なその姿をあらわすステキなネーミングで、誰が見ても異論はないでしょうね。ところがなかには「なんで、そんな名前に?」と疑問が湧いてしまう、見た目の色とはちょっと違うかな~と思ってしまう鳥もいます。今回紹介するアオジも、そんな鳥の一つじゃないかと私は思うのです。

アオジは、だいたいスズメくらいの大きさの小鳥です。春から夏にかけては、北海道や本州の山の森で子育てをし、秋から冬は平地で冬越しをする1年を送っています。ちょうど2月の今頃は、越冬しているアオジを街中の公園でもよく見かけます。

さて、そのアオジ、見ての通りの「黄色い鳥」です。それなのに、なぜかアオジという名前です。これはいったいどういうことなのでしょうか。

その答えは、オスの頭の色が灰色がかった緑色をしているから。緑色は江戸時代までは青と呼ばれていたので、それでアオジという名前になったというのです。そういえば、身の回りにも青葉や青虫など、緑色なのに青と呼ぶ物がたくさんあり、それと同じことなんです。

アオジのオス

アオジの他にも、アオゲラやアオバトなど、緑色なのに青と名前がつく鳥はいくつかいます。でも、アオジの場合は、やっぱり黄色が目立ちますから、注目するのはそこ?と思ってしまいます。メスは、全体的に淡い黄色を基調とした茶色系のスズメみたいな感じで、ぜんぜん緑でも青でもありません。

アオジのメス

ところでアオジの「ジ」とは、どういう意味なんでしょう。その答えは奈良時代にまでさかのぼります。その頃、アオジやホオジロなどの仲間は、まとめて「シトド」または「ジトド」と呼ばれていました。それが室町時代になると「アオジトド」とホオジロなどと区別されて呼ばれるようになり、江戸時代にはそれが簡略化され、今の「アオジ」という名前になったといいます。

シトドとは、ちょっと謎めいた名前ですが、こちらは鳴き声に由来する説があり、「チッ」や「チチチッ」と聞こえる小さな声が、シトドと聞こえることからの命名だろうという話です。確かに言われてみれば、そう聞こえるかもしれません。

今の季節にアオジに出会うには、緑の多い公園や河川敷などへ行くのをお勧めします。いわゆる藪と呼ばれるうっそうした下草の中に潜んでいることが多く、藪の中から「チッ、チッ、チッ」と一声ずつ区切って鳴く特徴あるアオジの小声が聞こえてきます。

声はすれども姿が見えないのでやきもきしますが、そんな時は、少し離れて静かにしていると藪から道に出てくるので、そっと待ちましょう。彼らの主食は草の種で、地面に落ちている種を見つけてはつまみ上げて食べる様子が見られると思います。

また、最近の都市公園にいるアオジには、警戒心があまり強くない個体がいて、手に取るような近さまでやってくる事があります。いつだったか、あまりにも近くすぎて私の足で踏んでしまいそうな事もありました。かつての日本には、鳥を見ると石を投げる人がいました。しかし、最近はみなさん、鳥に対して優しく接するようになったためか、鳥の方も人を恐れなくなってきたように感じます。なんだかとっても嬉しいことですね。

冬の今は、静かにチッ、チッと鳴くだけのアオジですが、4月上旬になると木の枝にとまって、鈴を転がすような涼しげな声で囀る姿を見ることがあります。鳴いているのはオスで、そろそろ繁殖地へ旅立つ前の準備を始めているのでしょう。

そして5月の連休過ぎには、標高1000mくらいの山の森に到着し、オス達は思い思いの場所にとまって囀りはじめます。高原の冷たい空気の中で聞くアオジの涼しげな歌声は、なんとも言えない清涼感があり、とてもすがすがしい気持ちになります。こうして文章を書いている今も、そのときの感じが蘇ってきて、なんだか高原のアオジに会いたくなってきました。春になるのが待ち遠しいですね。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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