こんにちは。俳人の森乃おとです。
春の光が柔らかく降る中で、花壇では赤や白、ピンクなど、カラフルで可憐な花が群れ咲いています。小さく可愛らしい花がキクに似ていることから和名はヒナギク(雛菊)。ヨーロッパではなじみの深い草花で、日本でも英名のDaisy(デイジー)で呼ばれることが多くなりました。
太陽の瞳のように開く可憐な花
ヒナギクは、キク科ヒナギク属の多年草でヨーロッパ原産。4月に咲く花として知られ、イタリアでは国花です。古くから花や葉は薬用・食用となり、古代エジプト王朝では装飾品のモチーフにもされるなど、ヨーロッパの生活や文化の中で広く愛されてきました。
ヒナギクは草丈10~20㎝。やわらかい毛の生えたヘラ状の葉はすべて根生葉(根元から出た葉)です。花期は3~5月で、葉の間から10cmほどの花茎を伸ばし、先端に径約2cmの頭状花を一輪ずつ咲かせます。キク科の植物の特徴として、花序は、ぐるりと並んだ花弁に見える舌状花と、中心部の黄色の筒状花(小花の集合体)で成り立っています。舌状花の花色は基本の白のほか、園芸種では淡紅や濃紫、絞りなど、実に豊富です。また一重咲きと八重咲きがあり、さらに径8㎝にもなる大輪の花を咲かす品種も見られます。
英名のデイジーはDay’s eye(デイズアイ)=「太陽の目」が語源。花の形が太陽に似ていることや、陽が射すと花を開き、瞳のような黄金色の筒状花を見せることに由来します。ただ、「デイジー」の名を持つ植物はほかにもあるため、ヒナギクを指す場合は「English daisy」「True daisy」と呼んで区別するそうです。
日本には観賞用として明治時代に渡来しました。園芸種は開花期間が12~5月と長いため、別名に「チョウメイギク(長命菊)」「エンメイギク(延命菊)」があります。
冷涼な気候を好むため、日本では北海道など一部では野生化しているそうですが、他地域では蒸し暑い夏を越すことができず、秋まきの一年草として扱われています。
愛している」「愛してない」の恋占いの花
ヒナギクの学名はBellis perennis(ベリス・ペレニス)。属名のベリスは、ラテン語の「美しい、愛らしい」の意で、ギリシャ神話に登場する森の妖精ベリデスに由来します。
ベリデスが、恋人のエフィゲネスと森の外れで楽しく踊っていたときのこと。その姿を一目見て果樹の神ウェルトゥムヌスは恋に落ち、ベリデスを執拗に追いかけはじめます。ベリデスに守護を求められた月と貞操の女神アルテミスは、彼女をヒナギクに変えてしまったのだとか。
一方キリスト教圏では、ヒナギクはイエス・キリストの幼少期の純真、また聖母マリアの純潔を象徴する花とされます。
ヒナギクを1本摘んで太陽の方を向き、「私を愛している」「愛していない」と交互に言いながら花弁を取る恋占いに使われた風習があることから、「measure of love(恋の尺度)」の名も持ちます。「ヒナギクの根を枕の下に置いておくと、将来の恋人の夢を見る」「デートするときにポケットにヒナギクを忍ばせておき、枯れなければ恋が成就する」などロマンチックな言い伝えも。この花の夢を春や夏に見れば「吉」、秋や冬に見れば「凶」という夢占いもあるそうです。
ヒナギクの花言葉は「無邪気」「純潔」「美人」「希望・幸福」。
「無邪気」「純潔」はキリストと聖母のイメージから、「美人」は学名のベリスからの連想です。「希望・幸福」は、太陽の光に向かって上向きに咲く花姿からでしょう。かつてヒナギクは、その性質から「The smile of God(神の微笑)」とも呼ばれました。
杉田久女は、鹿児島県出身のホトトギス派の俳人。高浜虚子に師事し、近代俳句における最初期の女性作家として活躍しました。
掲句は、華やかで格調高い久女らしい作品です。「うらら」とは漢字で書くと「麗」となり、空が晴れて日がやわらかくゆったりと照っている様子のこと。春うららともいいます。
久女は虚子に恋慕して拒絶されたといわれ、「うらら」とは言い難い人生を歩むことになりますが、この句の中でヒナギクそして久女は、永遠に美しくたおやかに咲き続けています。
ヒナギク(雛菊)
学名:Bellis perennis
英名:Daisy,English daisy,True daisy
キク科ヒナギク属の多年草でヨーロッパ原産。草丈10~20㎝。3~5月、高さ約10cmほどの花茎を伸ばし、先端に径約2cmの頭状花を一輪ずつ咲かせる。花色は基本の白のほか、淡紅や濃紫、絞りなど多彩。中央の筒状花は黄色で目立つ。園芸品種には八重のものが多い。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
