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コチドリ

旬のもの 2025.06.07

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
今回は、ちょうど今が子育ての真っ最中であるかわいらしい鳥「コチドリ」をご紹介します。

コチドリは全長16cm、名前の通り、日本にいるチドリのなかまでは最小です。夏鳥として九州以北に渡って来て子育てをしますが、西日本では冬を越す個体もみられます。この鳥の一番のチャームポイントは、なんといっても目の周りの黄色いリング。まるで黄色いメガネをかけたようなユニークな顔つきは、なかなかチャーミングです。さらに、オレンジ色のスラッとした脚も特徴的。スズメと同じくらいのサイズなのに、脚が長いせいか、見た目はちょっと大きく感じられます。

コチドリの典型的な生息環境は河川敷で、なかでも小石がゴロゴロした川原でよく出会います。実はここが彼らの営巣地で、地面に直接ゴロンと卵を産んで繁殖するのです。巣は、地面を浅く掘っただけの非常にシンプルなもので、初めて見た人は、鳥の巣とは思えないかもしれません。こんな状態だとあまりにも無防備すぎるので、天敵に見つからないかと心配になりますが、実はこれこそがコチドリの作戦なんです。

卵を抱くコチドリ

卵の色や形が周囲の小石に非常によく似ており、見た目でバレないようにカモフラージュしているのです。さらに、親鳥が卵の上に座って温めていると、体の色が地面の色と同化して、どこにいるのか姿が全くわからなくなります。この擬態の巧みさは本当に見事で、そこにいるのがわかっていても、少し目線を外してしまうと見つけられなくなり、私はいつも騙されてしまうのです。

生まれたばかりのヒナと親鳥

主な食べものは地上にいる昆虫です。大きな目であたりを見渡し、虫を見つけるとすばやくダッシュして捕まえます。そうとう広い範囲を見ているらしく、予想外の方向へダッシュを繰り返すので、これが遠目だと、あっちこっちにふらふら歩いているように見えます。これこそが、いわゆる「千鳥足」。お酒を飲んで気持ちよくなった人が、あっちふらふら~こっちふらふら~と歩く様子が、このチドリの歩き方とそっくりなのでそう呼ばれるようになりました。昔の人は生きものをよく観察していますよね。思わず感心してしまいます。

コチドリは本来、河川敷や海岸の砂浜などで繁殖しますが、近頃は都市部の造成地や砂利を敷いた駐車場などでも営巣する姿が見られるようになりました。春、渡ってきたばかりの4月初めごろ、「ピヨピヨ、ピピピピ」と思いがけない場所でコチドリの声を聞くことがあり、「こんなところに⁉」と驚くことも少なくありません。

なかでも、私が特にビックリしたのが、東京・秋葉原駅前の工事現場で営巣した例です。ビルが建つ前の造成地にコチドリのペアがあらわれ、見事にヒナを巣立たせました。そのとき気になったのが、都会の真ん中で何を食べているのかということ。

コチドリのヒナ

おそらく、水たまりに発生したユスリカやミギワバエといった昆虫を食べていたのだと考えられますが、そんな少量のエサで子育てができるのか、不思議でなりませんでした。このように目ざとく繁殖に適した場所を見つけ、さっと子育てを終えてしまうコチドリの姿を見ると、小さくてもしたたかで、たくましい鳥だなあと感心してしまいます。

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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