こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「赤紫蘇ジュース」のお話です。
梅雨が明けて夏の気配が色濃くなる頃、私の実家の冷蔵庫に数日間ほど「赤紫蘇ジュース」が常備される。
小学校から帰宅すると台所へ直行し、冷蔵庫を開けた時、あのジュースの容器を見つけた時の嬉しさといったら…!

氷をカラカラと入れ、冷気に包まれたグラスに水滴が滲む。外の強烈な陽射しとは裏腹に、ひんやりと薄暗い台所では、濃いルビー色の液体が妙に映えて美しかった。
ゴクゴクと喉を鳴らして飲むと、キュンとくる甘酸っぱさと赤紫蘇の爽やかな香りが、体の芯まで広がっていく。炎天下の通学路を頑張って歩いた疲れが、一瞬で吹き飛んだ。
幼い頃の私は「あの緑の紫蘇からどうやったらこんな真っ赤なジュースができるんだろう?」と不思議に思っていた。青紫蘇だけでなく、赤紫蘇があること知らなかったのだ。後に祖母が梅干し作りと赤紫蘇ジュースのためだけに、畑で育てていることを知った。
それを母が摘んで、ジュースにしてくれていたのだ。
当たり前のように毎年飲んでいた赤紫蘇ジュース。大人になり自分で作るようになった時に、その有り難さをようやく理解することになる。

初めての赤紫蘇ジュース作りは、想像以上に手間がかかる作業だった。赤紫蘇を綺麗に洗い、葉を茎から一枚一枚丁寧に外していくのだが、思ったよりも時間がかかった。ましてや、畑で自由に育った実家の赤紫蘇は、土や小さな虫を洗い流すのに、さぞかし手間がかかったことだろう。取っても取っても次から次へと出てくる大小さまざまな葉。シロップを作るために、こんなにも多くの葉が必要なのかと驚いた。

大量の赤紫蘇を煮詰め、濾して、ようやく小さな瓶に収まった液体を目にした時、達成感と共に「ああ、祖母や母は、こうやって私たちに夏の恵みを届けてくれていたんだな」と、初めて気がついた。
子どもの頃は、そんな作り手のことなど知る由もなかった。「作るの大変なんだから、大事に飲んでよー」などと母から言われた記憶もない。「頑張って作ったんだし、大事に飲まなきゃな」と思ったのも束の間、飲みだすと美味しくて、すぐにおかわりしてしまった。

赤紫蘇が店に並ぶようになると、あの手間が少し面倒だなと思いながらも「今年もやるか」と、自然と手が伸びる。家族が冷蔵庫を開けて「お、赤紫蘇ジュースあるじゃん」と、ぐびぐびっと飲んでいると「そうだろう。美味しいだろう」と満足げにその様子を見ている自分に気がつく。母もそのような気持ちだったのだろうか。
赤紫蘇が出回るのは一瞬。懐かしい夏の家庭の味を、手作りしてみてはどうだろうか。きっと、夏の食卓が華やぐだけでなく、そこに誰かの笑顔が花咲くことだろう。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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