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サンザシ

旬のもの 2026.04.19

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

春も終わりに近づき、輝く新しい季節が来ることを知らせるように、サンザシ(山査子)の純白の花が咲きはじめます。日本では少しなじみが薄いかもしれませんが、中国や欧米の人々にとっては、健康と幸せと希望を象徴する神聖なる樹木です。

甘い香りの花と酸っぱくて赤い果実

サンザシは、バラ科サンザシ属の落葉低木で、中国原産。果実が薬用・食用となることから、中国では古くから親しまれています。
漢名は「山櫨子」または「山査子」。和名はこれを音読みしたもので、日本には江戸時代、1734(享保19)年に渡来。当初は麻布御薬園(現・小石川植物園)にて栽培され、やがて観賞用としても広く好まれるようになりました。

樹高1~2 mで枝分かれが多く、2~8mmの鋭いトゲがあることが特徴。互生する卵形の葉は大きく裂け、先端の縁がギザギザしています。
花期は4~5月。同じバラ科のウメやナシに似た径2㎝ほどの白い5弁花を、枝の先に集めて咲かせ、爽やかで甘い香りを放ちます。
花後にできる果実は径1~2㎝の歪んだ球形。9~10月になると赤く熟し、その中には種子が4~6粒ずつ入っています。果実は酸っぱく、独特の匂いがあります。

中国で愛されるサンザシ飴

サンザシの果実は、古くから生薬・漢方に用いられ、消化促進や血行改善の効果があることで知られてきました。原産地の中国では酒に漬けて「山査子酒」にするほか、潰して砂糖や寒天などに練りこみ、棒状に成形して乾燥させた伝統的なお菓子が多くあります。
生食では「タンフール(糖葫芦)」と呼ばれるサンザシ飴が有名。竹串に生の果実をいくつか刺し、砂糖を煮溶かした液に漬けてそのまま固めたもので、北京などの中国北部の冬の風物詩です。日本の「りんご飴」にも似ています。

カンヌ映画祭パルムドール受賞の香港・中国合作映画『さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)』(1993年上映)にも、印象的に登場します。京劇役者の養成所で、自由のない厳しい環境に置かれた子どもたちにとって、真っ赤で美味しいサンザシ飴は、希望と憧れそのものだったのかもしれません。

サンザシの花の夜露で顔を洗う乙女

サンザシ属の仲間には、ヨーロッパから北アフリカ原産のセイヨウサンザシ(西洋山査子)があります。イエス・キリストが十字架にかけられた時、冠はセイヨウサンザシの木でつくられたという伝説から、魔除けの力があると信じられてきました。英名はHawthorn(ホーソーン)。thorn とはトゲという意味で、サンザシの特徴にちなみます。
また、5月に白い花を咲かせることから、Mayflower(メイフラワー)とも。春が去り、夏が再び訪れたことを告げる花として愛され、特にイギリスやフランスでは5月1日に祝われる五月祭に欠かせない花とされています。

五月祭当日の夜明け前、野原でセイヨウサンザシの花を摘み、その夜露で顔を洗った乙女はいつまでも美しく、1年以内に結婚相手が現れるという言い伝えもあります。
アメリカ合衆国では、セイヨウサンザシは国花の一つ。1620年、入植者を乗せ、イギリスからアメリカに渡航したメイフラワー号に、航海の無事を祈って魔除けとなるセイヨウサンザシの絵が描かれていたことに由来します。

花言葉は「希望」「慎重」「ただ一つの恋」

「希望」は、花々が咲き乱れるもっとも美しい季節に咲くことから生まれました。「慎重」は、枝に鋭いトゲがあることに由来。「ただ一つの恋」はスコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズ(1759~1796年)の若くして亡くなった恋人に捧げた『ハイランド・メアリー』という詩より。この詩には、恋人の思い出の象徴としてセイヨウサンザシが詠われます。
さて、俳句の世界においてサンザシの花は春の季語ですが、愛誦する俳句をひとつ紹介させていただきます。

さんざしの 花に来てゐる 鳥の午後――稲畑汀子(いなはた・ていこ/ 1931~2022年)

サンザシの花の白と小鳥のさえずりが陽射しの中できらきら輝き、その向こうには希望に満ちた明日がひろがっていくようです。

サンザシ(山査子)

学名: Crataegus cuneata
英名:Hawthorn, Mayflower

バラ科サンザシ属の落葉低木で、中国原産。花期は4~5月。径2㎝ほど白い5弁花を、枝の先に集めて咲かせ、香りを放つ。果期は9~10月。径1~2㎝の歪んだ球形の果実が赤く熟す。果実は生薬の原料となり、食用としても利用される。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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