果物って、なんとなく「おやつ」のイメージがありませんか。
デザートとして食後に少し食べる、ビタミンを補うために摂る。どこかそういった感覚で捉えている方も多いかもしれません。でも中医学の世界では、果物はもっと大切な役割を持っています。
食べて、元気になるための、立派な養生食なんです。
果物が「薬」になるという発想
中医学の古典『食療本草(しょくりょうほんぞう)』は、唐の時代に書かれた食物と健康の書物です。そこには、果物をはじめとするさまざまな食べ物の効能が記されています。
梨は肺を潤す、ぶどうは血を補う、なつめは気力を高める——果物はひとつひとつ、体への働きを持った「食薬(しょくやく)」として扱われてきました。
ただ「美味しいから食べる」だけでなく、「今の体に何が必要か」を意識して果物を選ぶ。それが、食べて元気になるということです。
季節の果物には、季節の意味がある
中医学では、旬の食べ物を大切にします。
なぜかというと、その季節の気候に対して、体が整うように育っているからです。
春に苺が出てくるのには、理由があります。冬の間に縮んでいた体が少しずつ動き出す春は、気の巡りが滞りやすい。苺の酸味は、肝(かん)の働きを助けて気の流れをスムーズにしてくれます。同時に苺はこもった熱を冷まし、過度な興奮を鎮めてくれる食材です。春先のだるさやイライラを感じるとき、旬の苺はじつは体にぴったりの食材なんです。
夏になると、すいかが登場します。
すいかは体の余分な熱を冷まし、水分を補ってくれます。暑さで消耗した体に、自然が用意してくれた夏の養生食です。昔から「天然の白虎湯(びゃっことう)」と呼ばれるほど、中医学では重宝されてきました。白虎湯というのは、体内の熱を冷ます代表的な処方のことです。それと同じ働きをすると言われるくらい、すいかには実力があるんです。
秋は梨の季節。
空気が乾燥してくる秋は、肺(はい)が傷みやすい時期です。咳が出やすくなったり、肌がかさついたり。梨の甘さと潤い成分は、乾きやすい肺と喉を内側からケアしてくれます。カットして、少し温めて食べるとさらに効果的です。
そして冬は、みかんや柚子。
みかんの皮は「陳皮(ちんぴ)」という生薬になるほど、中医学とは深い縁があります。気の巡りをよくして、消化を助け、体を内側から温めてくれます。冬の寒さで気が鬱々としやすいときに、みかんの香りと甘みは体をほぐしてくれます。
元気になるための食べ方のコツ
果物で元気になるためには、食べ方にも少しだけ気をつけてみてください。
まず、冷えたままたくさん食べるのは避けたほうが無難です。
果物の多くは体を冷やす性質を持っています。冷蔵庫から出したてのものを一気に食べると、胃腸を冷やして消化力を落としてしまいます。常温に戻してから食べる、食後のデザートとして少量にする、それだけでずいぶん違います。
次に、空腹時の食べすぎに注意です。
果物の糖分は消化が早い分、空腹時に大量に食べると血糖値が急上昇しやすくなります。「体にいいから」とたくさん食べるより、旬のものを少量、美味しくいただく。それがちょうどいいんです。
そして、自分の今の体の状態に合わせて選ぶこと。
疲れているとき、なんとなくぼんやりするとき、肌が乾いてきたとき。果物はそれぞれ、体に届ける働きが違います。「なんとなく体が欲しているもの」というのは、意外と当たっていることが多いんですよ。
毎日の暮らしの中に、果物を
難しいことは何もありません。
近所のスーパーや八百屋さんで、今の季節に並んでいる果物をひとつ買って帰る。それだけでいいんです。
旬の果物を手に取りながら、「ああ、今はこんな季節なんだな」と感じる。そのちょっとした意識が、体を整えていきます。
中医学は、特別なものを使うより、今、自分の周りにある自然のものを、正しく使うことを大切にします。
果物もそのひとつです。
毎日の食卓に、季節の果物をひとつ。それが積み重なって、元気な体をつくっていきます。

櫻井大典
国際中医専門員・漢方専門家
北海道出身。好きな季節は、雪がふる冬。真っ白な世界、匂いも音も感じない世界が好きです。冬は雪があったほうが好きです。SNSにて日々発信される優しくわかりやすい養生情報は、これまでの漢方のイメージを払拭し、老若男女を問わず人気に。著書『まいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』 (ナツメ社)、『つぶやき養生』(幻冬舎)など。
