こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「梅酒」についてのお話です。
店先に青梅が並び始めると、初めて梅酒を作ったあの頃を思い出す。
社会人になって数年経ったころ、日々の生活に少し余裕が出てきて、料理をするのが楽しくなってきた。するとずっと気になっていた「保存食」を自分でも作ってみたいという気持ちが湧いてきた。
幼い頃、祖母が作っていた色々な保存食。当時の私にとっては家にあるのが当たり前すぎて、一度も祖母から習ったことはなかった。今はちょうど梅の季節。「梅酒」なら、私にも気軽にできそうなだなと、挑戦してみることにした。
まず、何が必要なのかも分からない。まずは書店へと向かった。料理本のコーナーで保存食の棚を見渡す。一冊ずつ手にとって、装丁と紙の質感がしっくりと自分好みのものを見つけ、大切に持ち帰った。
材料を確認し、次は近所の器屋さんへ。寡黙なお姉さんが切り盛りする、センスのある日用品が揃う店だ。そこに梅酒用のガラス瓶があるのを、私は知っていた。「いつかこれで梅酒を漬けてみたいな」と密かに憧れていたのだが、とうとうその時が来たのだ。大・中・小と綺麗に並べられた棚から、一番大きな瓶をそろりと手に取り、そわそわしながらレジへ向かう。お姉さんが瓶を梱包しながら「たくさん作ってくださいね」と気さくに声をかけてくれ、なんだか嬉しくなった。
次は近所の小さな酒屋さんへ。お酒はあまり飲まないので、酒屋に入るのすら初めてだ。静かに重たいドアを開けた。足音を忍ばせながら、お酒のことは分からないなりに、焼酎のコーナーを探すが、やっぱりよく分からない。出て来てくれたお店のお兄さんに相談すると、「これもおすすめですよ」と、黒糖焼酎とブランデーを出してくれた。味の想像はつかないけれど、どれで作っても美味しくなりそうだ。すっかり楽しくなってしまった私は、結局あれこれとお買い上げ。ずっしりとした重みを抱えて歩いて帰った。
さて、最後に梅と氷砂糖を買わなければ。本を読んで初めて、梅酒と梅干しでは使う梅の熟度が変わってくるということを知った。青梅を買うなら、追熟してしまう前に買わなければ。私は急ぎ足になった。
こだわりの野菜を取り扱う八百屋さんへと向かうと、ちょうど青梅が並んでいた。実家の庭の梅とは違う、綺麗に大きさが揃った、傷のないふくふくとした青梅。ヘタの部分から湧き上がるような丸いフォルムは、そのままでは食べられないと分かっていても、すでに美味しそうである。そっと顔を近づけると、ほのかな優しく落ち着く香りがして、急いていた気持ちが静かに遠のいていく。傷をつけないように、そっと買い物かごへと入れた。
家に帰り、揃った材料を広げ、さっそく梅仕事へと取り掛かった。透明なガラス瓶の中に、ぷっくりとした青梅と氷砂糖を丁寧に重ねていく。その愛おしい時間を経て、最後にそっとお酒を注ぎ入れたら完成だ。
きらきらとした美しい瓶を眺めながら、本屋から始まった道のりを振り返り、静かな余韻に浸る。それぞれにお気に入りの材料を集めるだけで、すでに胸がいっぱいになるほどワクワクしていた。初めての梅酒作りで、私は「仕込む幸せ」をたんと味わったのだった。
あれから毎年、梅仕事と向き合っているけれど、あの頃の新鮮なときめきは今も色褪せない。道具や素材と出合う楽しみを、これからも大切にしながら、私は保存食作りを続けていきたい。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。