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アマ

旬のもの 2026.07.04

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

蒸し暑い夏が近づいてくると、通気性のよい爽やかなリネン素材のアイテムが登場します。リネンは身近だけれども、その材料となる植物のアマ(亜麻)はよく知らない人もいるかもしれません。日本ではあまり馴染みのないアマですが、夜明けの空のような青紫色の花がとても涼やか。そして人類の歴史とともに歩んできた最古の繊維植物の一つです。

園芸市場ではフラックスの名で流通

アマは、アマ科アマ属の一年草。カスピ海と黒海にはさまれたコーカサス地方から、中東にかけての一帯が原産地とされています。

学名はLinum usitatissimum (リナム・ウシタティッシムム)。属名は古代ギリシャ語で「糸」、種小名は「最上に有用な」を意味します。花は染料に、茎の繊維は糸や布に、種子の粉は薬になり、搾れば油が採れ、滓(かす)は家畜の飼料となるなど、すべてが無駄なく利用できることに由来します。

英名はフラックス(Flax)。「皮をはぎ繊維を採ること」を意味する古代ゲルマン語に由来するともいわれます。ちなみに園芸市場では、アマよりもフラックスの名で流通していることが多いようです。

草丈は60~120cmで、茎は細く上方で分岐します。互生する葉は葉柄がなく先端が尖った披針(ひしん)形で長さ2~3cm。花期は種を撒く時期によって変化しますが、およそ6~8月。淡い青色または白色の径1.5~2 cmの5弁花を咲かせます。

日の出とともに開花し、午後には散ってしまう儚い一日花(いちにちばな)ですが、次々にツボミをあげて多くの花をつけるため、見頃の期間が一カ月ほど続きます。
果実は球形で、長さ5mmほどの楕円形で扁平な数個の種子が入ります。黄褐色でつやがあり、成熟した種子を潰すことで、亜麻仁油(アマニ油)を抽出します。

聖なる「月光で織られた生地(Woven Moonlight)」

アマの歴史は、紀元前8000年頃、古代メソポタミア文明発祥の地であるチグリス・ユーフラテス川流域で栽培されたことにはじまります。そして紀元前6000~4000年頃、古代エジプト文明においてアマの利用は大きく発展。亜麻布の透き通る白さと光沢、軽やかさから「月光で織られた生地(Woven Moonlight)」と称えられ、神官の衣服に利用されたほか、ミイラを包む神聖な布としても使われました。

エジプト神話では、豊穣の女神イシスと亜麻布の話が伝えられています。女神の愛する夫は、兄でもある太陽神オシリス。ある時、嫉妬にかられた弟のセトはオシリスを殺し、遺体を14の部分に切り刻んでエジプト中にばらまいてしまいます。イシスは夫の断片を拾い集めてつなぎ合わせ、亜麻布に包んで復活と再生の強い呪術をかけました。ただし、パーツは一つ足らない13ピース。そのためオシリスは冥界の王として蘇ることになります。

キリスト教においても、旧約・新約聖書の中でアマの名は何度も登場し、十字架から降ろされたイエス・キリストの遺骸を包んだのも、亜麻布だったと語られます。

北海道とアマ栽培

日本には江戸時代前期の元禄時代(1688〜1704年)に渡来。「亜麻仁(あまに)」と呼ばれる種子を薬種として使用するため、江戸の小石川御薬園(小石川植物園の前身)にて栽培されました。

和名の漢字表記は漢名からで、「アサ(麻)に亜(つ)ぐ」有用植物であるという意。別名にヌメゴマ(滑胡麻)、アカゴマ(赤胡麻)などがあります。

ただし、本格的に繊維用の作物としてアマが導入されたのは、1874(明治7)年。ロシアから種子が日本に送られ、北海道・札幌で試験栽培が行われたことがはじまりです。しかし、北海道でのアマ栽培は第二次世界大戦後、急速に廃れて1960年代には途絶えてしまうことになります。その中で、石狩郡の当別町(とうべつちょう)ではアマ栽培を復活させ、初夏に毎年「北海道亜麻まつり in 当別」を開催。2026年に19回目を迎えます。

花言葉は「あなたの親切に感謝します」

北欧神話では、愛と豊穣の女神フルダが人間にアマを与え、これを紡いで織る方法を教えたとされています。アマの花言葉は、この伝承から生まれました。

さて、フランスの作曲家、クロード・ドビュッシー(1862~1918年)の有名な前奏曲『亜麻色の髪の乙女』の「亜麻色」とは花の色ではありません。亜麻糸の麦わら色に近い淡い黄褐色を指します。日本では同名の歌謡曲によっても広く知られ、「亜麻色」には、乙女の髪色を思わせるロマンチックな響きも重ねられるようになりました。

冷涼な気候を好むアマは、日本の栽培適地は北海道のみといわれます。北海道河西郡帯広町(現・帯広市)に生まれ、32歳で病のため早逝した歌人中城ふみ子(なかじょう ・ふみこ/1922~1954年)には、次のような印象的な一首があります。

息きれて 苦しむこの夜も ふるさとに 亜麻の花むらさきに 充(み)ちてゐるべし

ふみ子は波乱万丈な生涯を送り、命が尽きるまで情熱的な歌を詠み続けました。病床に伏して、その眼裏(まなうら)に浮かぶのは、初夏の故郷を染め上げる、アマの花の透き通るような懐かしい青だったのでしょうか。

アマ(亜麻)

学名: Linum usitatissimum
英名:Flax

アマ科アマ属の一年草。コーカサス地方から中東にかけての一帯が原産地。草丈60~120cm。花期6~8月。淡い青または白色の径1.5~2 cmの5弁花を咲かせる。人類最古の繊維の一つであり、紀元前8000年、チグリス・ユーフラテス川流域で栽培された。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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