処暑を過ぎ、朝夕にわずかながら秋の気配を感じ始める頃となりました。9月最初にご紹介したいのは、鹿児島県が誇る黒豚を活かした郷土料理の数々です。
骨付き肉を煮込んだ「豚骨(とんこつ)」をはじめ、一頭の豚を余すことなく食べ尽くす知恵から生まれた料理まで、鹿児島の食卓をたどってみましょう。
薩摩武士の野趣を今に伝える「豚骨」
「豚骨」は、豚の骨付きあばら肉を焼き、芋焼酎で炒りつけたのち、コンニャクや大根、ゴボウなどの野菜とともに、麦味噌と黒砂糖でじっくりと煮込んで作る料理です。その起源には諸説あり、江戸時代に薩摩の武士たちが狩り場や戦場で仕留めた猪の肉を味噌で味つけして食べた野外料理に始まるとも、かの西郷隆盛の好物であったことから広まったとも伝えられています。
食べ応えのある豚料理は、次第に人々の間に広まり、お祝いや宴席を彩る料理として、鹿児島を代表する郷土料理のひとつとなりました。
豚味噌。一頭の豚を無駄なく生かす知恵
一方、奄美地域では、豚を無駄なく生かす料理が親しまれてきました。古くから奄美の各家庭では豚が飼われ、年末にその命をいただいて年越しのご馳走とするなど、貴重なタンパク源とされてきました。
どの部位も無駄にしないため、保存のきく「豚味噌」にする習慣があります。この料理は、豚肉と味噌に、刻んだ落花生や砂糖、カツオ節などを加えて作ります。甘いおかず味噌で、ごはんのお供やおにぎりの具に、またお茶請けにと、常備菜として活躍してくれる一品です。
鹿児島が育んだブランド黒豚のあゆみ
鹿児島の黒豚は、薩摩藩の島津家久が琉球から移入した豚をルーツとし、明治時代にはイギリスのバークシャー種と交配を重ねて改良されてきたといいます。一時は成長の早い白豚の飼育が広まり、黒豚の数が減った時期もありましたが、柔らかな肉質と強い旨みを持つ黒豚の良さが見直され、振興が進められました。
今では「かごしま黒豚」というブランド豚が知られていますが、こうした地域の人々の努力の末に確立されたものです。豚骨や豚味噌といった郷土料理の滋味深さも、土地で育まれてきた黒豚のおいしさあってこそのもの。秋の気配が深まるこれからの季節、じっくり煮込んだ黒豚の旨みは、夏の暑さに疲れた体をそっといたわってくれると思います。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
