立冬を目前に、海の幸がぐんと旨みを増してくる季節。西日本の食卓を華やかに彩る魚が「クエ」です。
体長1メートルを超えるほどに育つ大きな魚で、漁獲量が少なく、「幻の高級魚」とも呼ばれてきました。今回は、土地ごとに異なる表情をもつクエのごちそうをご紹介します。
九州では「アラ」と呼ばれる、岩礁の主
クエはスズキ目ハタ科の魚で、体長1メートル、体重30キロを超えるような大きな個体もいます。外洋に面した岩礁に単独でひそみ、夜に活動する魚で、九州では「アラ」と呼ばれます。
大きな口と頭の迫力とは裏腹に、白身は上品でやさしい味わい。ほどよい脂とぷるりとした食感が魅力です。近年は水揚げが少なくなり、いっそう貴重な魚となりました。和歌山県では、冬の名物として愛され、また、玄界灘に面した佐賀県の唐津では、くんちの季節にちょうど旬を迎える高級魚として、祭りのごちそうに欠かせない存在です。
和歌山県 昆布だしで味わうクエ鍋
クエの生息地である和歌山県の沿岸では、「クエ鍋」が冬のごちそうです。昆布だしで野菜とクエをさっと煮て、醤油とポン酢を合わせたたれでいただきます。たれにはもみじおろしと刻んだネギを加えるのが定番で、白くやや半透明の身は、火を通してもしっとりとやわらか。お店では皮や内臓を湯引きしたものや天ぷらなどが、前菜として添えられることもあります。鍋の終わりには、クエのうまみが溶け出した、贅沢な雑炊を。骨のまわりまで味わい尽くす、冬ならではの名物です。
佐賀県唐津 くんちを彩るアラの姿煮
11月2日から4日は、唐津神社の秋季例大祭「唐津くんち」です。
14台の曳山が城下を巡る、勇壮なお祭りです。この祭りの日、唐津の家々では、日頃お世話になっている方々をもてなすために「くんち料理」を用意します。2日の宵のころから最後の仕上げが始まり、3日のお昼には、盛りだくさんの料理が食卓に並びます。かつては月給の3か月分をかけて準備したともいわれる、心づくしのおもてなし料理です。その主役が「アラの姿煮」。大きなアラの腹に大根とゆで卵を詰め、丸ごと煮付けた一品は、祭りのもてなしの心を映すごちそうです。
同じ魚でも、鍋に、姿煮に。土地の暮らしや祭りとともに、冬のごちそうは育まれてきました。なかなか出会えない高級魚ですが、機会があればぜひ、その土地の背景にも思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
