こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
日本の昔ながらの田畑を思い浮かべたとき、その光景の中には、すっくと立って鳥獣から大切なお米や作物を守らんと両手を広げている、案山子(かかし)の姿が切り離せません。
その実態は、木や竹、藁などを使って作られ、着物や蓑と笠(現代なら洋服)をまとい人間を模した人形です。
広大な田畑に近づかんとする動物たちを、「人の姿」を真似て、朝から晩までたったひとり追い払おうと頑張っているのだと思うと、人形ながらも健気で一生懸命なその様子には頭が下がる気がします。
案山子とひとことで言っても、その形や仕掛けはさまざまなものがあります。
もともとは獣肉や魚の頭、髪の毛などを焼き焦がして、その臭いで鳥獣が近づかないようにするものでした。「案山子」の名前の由来も、「嗅がし(かがし)」から来ていると言われています。
警戒心の強い野生の鳥や獣は、大抵「人がいなくなった瞬間」に作物を狙ってきます。かといって、田畑が荒らされないように、一日中見張りをしておくわけにも行きませんよね。
狙われる作物を守るためには、「自分の分身」を作って守るしかないと、農家の人たちはあれこれ知恵を絞ってきたに違いありません。
空き缶の音や空砲音で脅かす仕掛けや、キラキラと光る金属片などをぶら下げて惑わす方法など、長い農耕の歴史の中でさまざまな工夫が試されてきたのですね。
さて、案山子は「人間」を模しているというお話以外に、もうひとつ日本ならではの文化があるのをご存知でしょうか?
それは、案山子が「田の神の依り代(よりしろ=神霊が宿る器)」であるという説です。「春になると山から山の神様が田に降りてきて、田の神様となって田んぼを守ってくださる」そして「秋になり、無事に稲の収穫が終わると再び山に帰られ、山の神様に戻られる」という伝承が、日本各地で受け継がれています。
案山子は、そんな田の神様の宿る場所でもあったのですね。
地域によって形はさまざまですが、お役目を終えた案山子は田畑から引き上げられ、新しい服やお供え物で感謝を捧げるお祭りが行われたりもします。
自然そのものをいくつもの神々(=やおよろずの神)として祀り、その恵みに感謝や畏怖の念を抱いてきた日本人らしい、素敵な文化ですよね。
時に厳しさも見せる自然からの恵みは、決して「当たり前」のものではない――ということを先人たちは本能で感じ取っていたからこそ、稲作をはじめとする農業にはこういった「祀り」と「祈り」が欠かせなかったのでしょう。
身近に田畑がない場合には、案山子を見かけることも少ないでしょう。それに、近年ではよりハイテクな技術を用いた、鳥獣対策を行っている農家も増えているかもしれません。
それでも、どこかで案山子を見たときには、豊かな食へのありがたさを思い出し、その恵みを授けてくださる自然(神様)への感謝を忘れずにいたいものですね。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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