こんにちは。星空案内人の木原です。
今年の中秋の名月も過ぎ、気候も気持ちも秋になってきたこの頃。頭の真上では夏の星座たちがまだ元気だぞ、と言わんばかりに綺麗に輝いています。先月は夏の星座の代表格としてはくちょう座を紹介しましたが、今回は同じく夏の星座としてお馴染みのわし座にまつわるお話です。
わし座のモデルになったのも、皆さんご存知の大神ゼウス。はくちょうに化けたうえに、わしにも化けたのか!という感じですね。化けた理由もお察しの通り、美しい人のため。日課の如く地上を見渡していたゼウスは、トロイという国にいる美しい少年ガニメデに目が留まりました。ガニメデは、どんな美女にも負けないほど容姿端麗で、女性だけでなく男性さえも魅了してしまう美しさでした。
そんな美しい少年を見つけたゼウスがじっとしているはずがありません。一羽の鷲に姿を変え、トロイの国に舞い降りてあっという間にガニメデを天上の国へさらっていきました。突然の出来事に驚きと悲しみを隠せないガニメデにゼウスはこう告げます。「私の側にいてくれるのなら、永遠の若さと美しさを与えよう」。自力で地上に帰るすべも分からないガニメデは、その申し出を受け入れるほかありませんでした。それ以降ガニメデは、ゼウスの側で神々のお酌係などをしながら過ごし、その姿はみずがめ座となって夜空に輝いています。
わし座の体で輝く1等星アルタイルは、七夕伝説に登場する彦星として有名です。彦星とは男性の敬称に由来する和名で、七夕伝説発祥の地である中国では牛を飼っている青年という意味の牽牛(けんぎゅう)と名付けられています。実際の星空を見るとアルタイルの両脇に星が2つあり、その2つが牽牛の飼っている牛に見立てられます。日本でも、アルタイルのことを和名で牛飼い星と呼ぶ地域もあります。
牛飼い星のほかに、犬飼い星という和名が残っている地域があります。犬飼い星は、七夕伝説が中国から伝わってくる前から呼ばれている名前のようで、逸話はいくつかありますが、天女のあと追って犬の尾にすがりついて天に昇った青年が犬飼い星になったなどと記録が残っています。
七夕伝説が有名となり、犬飼い星の話はマイナーなものとなりましたが、牽牛のお話と同じようにアルタイルの両脇にある2つの星でセットとして物語を想像することは同じだったようです。わし座にあるこの3つ星に、みなさんは何を思い浮かべますか。

