こんにちは。ライターの高根恭子といいます。
春が終わり、新緑がきれいになり始めるこの季節。
おだやかな気候が心地よくて、ふと見る景色に心が反応することが多くなります。
そんな季節に咲き始める花について書きました。よろしくお願いします。
桜の見ごろが過ぎた晩春の時期に、ほのかな香りを放ちながら美しい姿を見せてくれる「藤」の花。
最近では、観光スポットも増えてきて、藤棚の写真がSNSでアップされたりと話題になっています。
藤は、マメ科フジ属のつる植物。
4月下旬から5月上旬にかけて花を咲かせます。
花序は20cmから80cmもの長さになり、蝶々のような形の、うすい紫色の花をつけます。
その見た目の華やかさから、平安時代から高貴な花として親しまれ、日本の書物にも多く登場してきました。
万葉集では藤を詠んだ歌は26首もあり、花が大きな房となって密集することから、「藤波」と表現したものが多いのが特徴です。
藤波の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君(大伴四綱)
これは、大宰府の防人の次官大伴四綱が、大伴旅人に向けて詠んだ歌。奈良から遠く離れた大宰府に赴任している旅人に「見事に咲き誇る藤の花を見ていると奈良の都を思い出しませんか」と思いやる気持ちが表現されています。
恋しけば形見にせむと我がやどに植ゑし藤波今咲きにけり(山部赤人)
「恋しいときに形見にしようと植えた我が家の藤が、今をさかりと咲いています」
霍公鳥(ほととぎす)が恋しくなったときの形見として藤の花を愛でることで、霍公鳥を偲ぶ気持ちを詠ったと言われる一首です。
どちらの歌も、藤は「華やかに咲き誇る花」として登場し、思い出の場所や愛しいものを藤の花に重ね合わせて詠まれています。高貴で色っぽい、非世俗的な藤の花の美しさを前にするからこそ、湧き出てくる叙情的な気持ち。その気持ちを押し出すために、歌にしたり見入ったりしていたのだろうことを想像すると、より一層、切なさや感慨深さが増してくるようです。
また、藤はその優雅さとは対照的に、野性味に溢れた生命力も大きな魅力のひとつです。
藤の寿命はとても長く、樹齢1,000年を超えるものも日本には数多くあります。また、自立して咲くことができない植物なので、他の木に巻きつきながら日の当たる場所を求めてどんどん上に伸びていく貪欲な一面も。その繁殖力の強さから、「途絶えない花」として平安時代の藤原氏をはじめとして、伊藤、佐藤など日本人の姓にも多く用いられてきました。
藤棚で整えられた藤、山に咲く野生の藤...
そこに重ねられた古の人々の思いや、しなやかで力強い生命力に思いを馳せてみると、また違った魅力を再発見できるかもしれません。
高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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