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ムラサキシキブ

旬のもの 2020.10.22

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こんにちは、俳人の森乃おとです。

秋の深まりとともに、ムラサキシキブの可愛らしい実も、いっそう色合いを深めています。紫は、洋の東西を問わず高貴さの象徴とされる色。平安時代の『源氏物語』の作者・紫式部と同じ名前を持つことも、そのみやびな印象を強めずにはいられません。

山野に自生するシソ科の木

ムラサキシキブ(紫式部)は、全国の山野に自生するシソ科ムラサキシキブ属の落葉低木です。高さはせいぜい3mまで。6月ごろ、葉のわきに薄紫色の花を小房状につけ、直径3mmほどの丸い実を成らせます。この実は、初めは薄緑色ですが、秋には深い紫色に色づきます。

実が美しいので観賞用の庭木として好まれ、今では野生のものはほとんど見られなくなりました。

鳥海昭子の短歌「むらさきの 清(さや)かなる実の 雨にぬれ ムラサキシキブも 山ゆく人も」は、山で出会った珍しい野生の姿を詠んでいます。時雨(しぐれ)に濡れてムラサキシキブの実は、いよいよ艶やかに輝くのです。

熟した木の実が色づくのは、鳥に種を運んでもらうためです。赤や紫は鳥が好む色だそうです。ムラサキシキブの実も小鳥の大好物。人間にはどうなのかと思い、試しに口に含んでみたら、清涼感のあるほんのりとした甘さを感じました。

「ムラサキシキブ 最も早く 実を持てど 最も早く 鳥の食い去る」は昭和の歌人・土屋文明の短歌。せっかく果実が色づいてきたのに、鳥がいち早くついばんでしまうおかしみを詠んでいます。

ところで、一昔前までムラサキシキブはクマツヅラ科とされていました。動植物の分類は、遺伝子研究による近縁関係の解明が進んだため、大改編が進行中です。これによりムラサキシキブ属もシソ科に編入されました。

名前をつけたのは江戸の植木屋さん

ムラサキシキブという名前は昔からあったわけではありません。中世までは実の色や形から「実紫(ミムラサキ)」「玉紫(タマムラサキ)」などと呼ばれたようです。

江戸期の本草学者として名高い貝原益軒は、1709年に刊行した『大和本草』で、「玉ムラサキ」とした上で、〝京にては紫シキミといふ〟と記しています。

「シキミ」とは、「重実」「敷実」と書き、実が密集している状態を表します。京都方言の「ムラサキシキミ」が「ムラサキシキブ」に変わるのは、時間の問題だったという気がします。

名前の移行についての重要な情報は、江戸前期の1684年に刊行された華道の指南書の『抛入花伝書(なげいればなでんしょ)』にありました。「実紫」の名を挙げた上で、〝植木売は紫式部といふ〟と注釈しています。
つまり、紫式部と命名したのは、江戸期の園芸ブームを支えた植木師たちだったというのです。素晴らしいイメージ戦略だと思いませんか? 

王朝文学の才媛の名前は、ムラサキシキブの雰囲気によく似合います。斬新な商品名によって、その売り上げはさぞ増したにちがいありません。

コムラサキとシロシキブ

ムラサキシキブの近縁種に、コムラサキ(小紫)があります。別名はコシキブ(小式部)。ムラサキシキブより小ぶりで、枝をやや水平に延ばし、たくさんの実をブドウの房のようにつけます。今日、ムラサキシキブとして植えられ、目にすることが多いのは、ほとんどが見栄えのよいコムラサキです。

「小式部」という別名は、平安歌人の小式部内侍(こしきぶのないし)を連想させます。紫式部と同時代の恋多き歌人・和泉式部の娘で、やはり才女として知られていました。
また、実の色が白い変種もあり、シロシキブ(白式部)と呼ばれます。

花言葉は「聡明」「上品」「愛され上手」

ムラサキシキブの花言葉は「聡明」「上品」「愛され上手」。「聡明」は紫式部の才気から、「上品」は美しい実の印象からうまれました。「愛され上手」は、『源氏物語』の主人公光源氏のキャラクターにちなむそうです。

学名はCallicarpa japonica。「カリパルパ」は「美しい実」という意味のラテン語。英語名も意味は同じでJapanese beautyberryとなります。

ムラサキシキブ(紫式部)
別名ミムラサキ(実紫)、タマムラサキ(玉紫)
学名Callicarpa japonica
英語名Japanese beautyberry
シソ科ムラサキシキブ属の落葉低木
高さは1~3m。6~7月に淡紫色の花をつけ、3mmほどの丸い実は秋に紫色に熟す。日本全国と朝鮮半島、台湾に自生。硬い木部は杖や箸に使われる。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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