寒さがいっそう厳しくなり、鍋料理が恋しくなる1月中旬。
そんな冬の食卓に欠かせない野菜のひとつが「水菜」です。シャキシャキとした軽快な歯ざわりと、さっぱりとした味わいは、寒い季節の料理にほどよい軽やかさを添えてくれます。
京の冬野菜としての水菜の歴史
水菜は、近畿地方を中心に古くから食されてきたアブラナ科の葉物野菜で、葉先のギザギザとした形が特徴です。
『雍州府志』(1682)や『本朝食鑑』(1697)によれば、畔に水を引き入れて栽培されたことから「水入菜(みずいりな)」と呼ばれたとされています。細い葉が何百、何千と伸びる姿にちなみ、「千筋菜」「千本菜」といった別名もあったようです。
また、『菜譜』(1704)には、京都の水菜はとくに味がよいことが記されており、当時から冬場の貴重な青物として重宝されていた様子がうかがえます。
江戸時代の『拾遺都名所図會』(1787)には、京都・壬生川で収穫された水菜を洗う情景が描かれており、水菜が京の名産として広く知られていたことがわかります。
水菜は現在でも代表的な京野菜のひとつとして知られ、全国的な人気を誇る野菜です。関東以北では「京菜」の名で流通することも多く、こちらの呼び名のほうが通りがよい地域もあるほど。
名産地と全国への広がり
現在、水菜の主な産地は京都府のほか、茨城県、福岡県、愛知県など全国に広がっています。とくに京都産は「京水菜」としてブランド化され、葉が細く繊細で、香りがよいのが特徴です。一方で、品種改良やハウス栽培の普及により、周年出荷が可能となり、サラダや付け合わせなど生食でも利用される機会が増えました。
とはいえ、水菜本来の持ち味が最も生きるのは、やはり寒い季節でしょう。火を通してもくたっとなりすぎず、鍋物や煮浸しにすると、冬野菜ならではの滋味が感じられます。
大阪の郷土料理「ハリハリ鍋」
水菜を語るうえで欠かせないのが、大阪の郷土料理「ハリハリ鍋」です。これは、鯨肉と水菜を主な具材とした鍋料理で、水菜のシャキシャキとした食感を「ハリハリ」と表現したことが名前の由来とされています。
捕鯨が盛んだったころは、鯨は庶民にとって貴重なたんぱく源であり、大阪には独自の鯨肉食文化が育まれてきました。脂ののった鯨肉と、さっぱりとした水菜は相性がよく、昆布や鰹節からとったあっさりだしでさっと煮て食べるハリハリ鍋は、冬の定番料理として親しまれてきました。鯨肉が手に入りづらくなった現在では、豚肉などで代用されることも増えましたが、水菜が主役である点は変わりません。
寒さの中で育った水菜は、みずみずしさと力強さをあわせ持つ冬野菜です。鍋の湯気の中でさっと火を通し、歯ざわりを楽しむひとときは、一年で最も水菜がおいしく感じられる時間でしょう。京の畑で育まれ、大阪の鍋で親しまれてきた水菜。年のはじめの食卓に、ぜひ並べてみてください。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
