染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な美しい色の名前がつけられてきました。今回は、「裏葉色(うらはいろ)」についてご紹介致します。
3月に入りようやく春の兆しが見えてくるころ、梅の花や桃の花、やがて開花する桜など、この季節に咲く花が気になる季節ですが、個人的には若葉や若菜など芽吹く新緑の色合いに目が行きます。若草色、若菜色、柳色など、この「日本の色」の連載でもいくつか春に見られる緑の色についてお話しさせて頂いておりますが、「裏葉色」もその緑にまつわる色名です。
裏葉色とは、柳や蓬などの葉の色のように、表の色に対して裏の色が淡く白っぽく優しい色合いをとらえて、名付けられたと考えられています。他の緑系の色合いと同じく、こちらも藍染をした後に黄色の染料を染め重ねて表しています。色見本は藍の生葉染をした後にわずかに黄檗をかけていて、柳の裏葉のように前回ご紹介した若菜色より、淡い中にも青みの強い印象に仕上げています。
春に芽吹く柳を見ていると、枝は太い幹の上部から次第に細く、しなやかに垂れ下がり風に揺れています。細く長い葉とともに下がる様子は糸や髪のようにも見えて、「柳のように美しい髪」というように表現されることもありました。その糸のように細い枝について風に揺れる葉は、表の色も白い裏の色も見えることから「裏柳」や「柳の裏葉色」という言葉も生まれました。
『源氏物語』若菜下では、光源氏が47歳を迎えた正月19日(今年の暦では3月7日)に、六条院に住まう女三の宮、明石女御、紫の上、明石の君の4人の女性によって「女楽」が催されます。それぞれが、その季節に合った桜の細長や紅梅の御衣などを着ている中で、明石の君は
という装いをしています。
その他の女性は身分が高い方々なので、あえて女房装束である裳をつけて敬意を表しています。細長の「柳」の織物のをあらわすのに、文献には「表白、裏薄青」または「経青、緯白」と書かれていることが多く、淡い緑の裏地に白い表地を重ねる、または、経糸に淡い緑を配し白い緯糸を通して、柳の葉の表の色、裏の裏白の色の両方を感じさせる手法が多く使われています。
上の写真の中央の生地は「柳の織物」を表すために、経糸に淡緑、緯糸に白糸を使って織ったものです。
また、2019年から5年の歳月をかけて実践女子大学のプロジェクトで女房装束を再現した際に、糸や布の染色を担当させて頂きました。その際にもこの場面の明石の君の装束に関する記述を参考しながら制作することになったのですが、一番上に着装している「柳の織物の細長」の表地は、薄く透き通るような白を配し、裏地には柳のような淡い青みのある布に染めました。それぞれの布がやがて細長に仕立て上がると、ほんのりと柳の裏葉の色が浮かび上がるような仕上がりとなりました。
「日本の色」とは、基本的にはフラットに表現した色が殆どかと思うのですが、こうして表地と裏地の異なる色を重ねたり、経糸と異なる色の緯糸を交差させたりすることによって立体的に表現される色もあるのだなぁと、日本の色の奥深さに感じ入りました。
3月29日(日)までパラミタミュージアムにて展覧会「日本の色 染司よしおか 吉岡更紗の仕事」が開催されます。
会期:2026年 2月7日(土) ~ 2026年 3月29日(日) 9:30〜17:30(入館は17:00まで)
会場:パラミタミュージアム
交通:
●東名阪「四日市IC」より湯の山方面へ約6.5km
●新名神「菰野IC」より約4km
●近鉄「四日市駅」より近鉄湯の山線にて約25分「大羽根園駅」下車、湯の山温泉方面へ300m
※駐車場:無料(普通車 100 台、大型バス駐車可)

吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
