梅雨が明けると、強い陽射しとともに、本格的な夏がやってきます。暑さに疲れた午後、冷蔵庫から取り出した水羊羹をひと口。つるりとした口あたりと、やさしい甘みが、身体の熱をそっと鎮めてくれます。
透明感のある見た目も涼やかな水羊羹は、日本の夏を代表する和菓子のひとつ。けれど実は、羊羹そのものは、もともと温かい料理だったことをご存じでしょうか。
羊羹から生まれた、涼やかな夏の味
羊羹のルーツは、中国で食べられていた羊肉の羹(あつもの:温かい汁物)にあると伝えられています。それが禅宗とともに日本へ伝わると、肉食を避ける精進料理の考えから、小豆や葛粉などを用いた菓子へと姿を変えていきました。
室町時代には蒸し羊羹が主流でしたが、江戸時代半ばになると寒天を使った練羊羹が誕生します。水羊羹は、練羊羹よりも寒天を少なくし、水分をたっぷり含ませたものです。明治時代以降、氷の利用が広まったことや、戦後の冷蔵技術の普及とともに、夏に冷やして味わう菓子として人気を集めるようになりました。
口に入れた瞬間、ほどけるように崩れていくやわらかな食感は、暑い季節だからこそ心地よく感じられる味わいです。
地域によって異なる、水羊羹の楽しみ方
水羊羹は全国で親しまれていますが、地域によって食べる季節や特徴が異なります。
とくに有名なのが福井県です。全国では夏の菓子という印象が強い水羊羹ですが、福井では意外にも冬の風物詩として愛されています。
雪の降る季節になると、大きく薄い箱に流し込まれた黒糖入りの水羊羹が店頭に並び、暖かい部屋で家族で切り分けていただきます。
その背景には、かつて京都へ奉公に出た人々が年末に帰省する際に、故郷へ持ち帰った羊羹が発祥という説があり、そのため「丁稚羊羹」とも呼ばれます。A4サイズほどの平たい水羊羹を木べらで切り分けていただくスタイルは独特で、黒糖のコクやつるりと瑞々しい食感も冬に味わうとまた違った良さがあります。
そのほか、長野県の小布施では特産の栗を活かした水栗羊羹が見られたり、京都では宇治抹茶の豊かな風味を取り入れた水羊羹が人気を博したりと、土地ごとの菓子文化が映し出されています。
同じ水羊羹でも、その土地の気候や暮らし、人々の好みに寄り添いながら育まれてきたことがわかります。
涼をいただく、日本人の知恵
昔は冷房も冷蔵庫もない時代が長く続きました。それでも人々は、風鈴の音や簾の影、打ち水や団扇、そして涼やかな食べ物によって、暑さを和らげながら夏を過ごしてきました。
水羊羹もまた、そのような「涼をいただく」文化のひとつといえるでしょう。
近年はますます夏の暑さが厳しくなっています。そんな時代だからこそ、器にそっと盛られた一切れの水羊羹をゆっくり味わうひとときを大切にしたいものです。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
