春の毎日を心地よく暮らすためには、季節に合わせて過ごすことが大切です。この特集では、国際中医専門員・漢方専門家の櫻井大典先生に教えていただいた春の養生についてまとめました。
皆さまが穏やかに春の毎日を楽しめますように。
春の養生の基本
『黄帝内経 素問』の教え
中医学のバイブルである『黄帝内経 素問』には、春の養生についてこう書かれています。
春三月.此謂發陳.天地倶生.萬物以榮.夜臥早起.廣歩於庭.被髮緩形.以使志生.生而勿殺.予而勿奪.賞而勿罰.此春氣之應.養生之道也.逆之則傷肝.夏爲寒變.奉長者少.
春の三ヶ月、これを発陳*という。すべてのものが芽生え、天地の間の万物は活き活きと栄える。夜は寝て、朝は早く起き、庭に出てゆったりと歩き、髪を解いてほぐし、体ものびのびと緩める。活かして殺さず、与えて奪わず、ゆるゆると過ごすのがよい。
これは春に芽吹く万物と同じように、心身ともに陽気を発散させ、天地の気に合わせて陽気な気分で養生することが大切です。これに背くと、春に活動する肝気が傷つき、夏になって冷えの病にかかりやすくなります。 *発陳・・・発生の意
肝を健やかに
中医学では春になると「肝」の働きが活発になり、肝が健やかであれば情緒が安定し、気分も穏やかで、身体もしなやかに動きやすくなります。春には青菜や山菜など、青や緑の食材を積極的に取り入れましょう。これらの食材は肝の機能を助け、胃腸も元気に保つ効果が期待できます。
春の養生では、活動的になりすぎず、心身ともに穏やかに、そして新しい季節の始まりをのびのびと迎えることが大切です。
春に摂りたい食材
春の皿には苦味を
春の食事では、「春の皿には苦味を盛れ」という言葉にあるように、ウドやふきのとう、タラの芽、つくし、ワラビなどの苦味を持つ山菜を取り入れてみましょう。これらの春野菜は、冬に溜め込んだ脂肪や老廃物の排出を促し、新陳代謝を活発にして体を春仕様に切り替える働きがあります。山菜の苦味成分は、胃腸の働きを助け、不要なものを体外に出しやすくしてくれます。
また、中医学では苦味は精神を落ち着かせ、血流や消化機能の安定にも寄与するとされています。しかし摂りすぎると体を冷やしたり、呼吸器や大腸に負担となる場合があるため、体調に合わせて取り入れましょう。
自然の変化に応じてバランスよく
加えて、春は「肝」が盛んになり情緒が不安定になりやすい季節です。イライラやのぼせを感じた時も、苦味や春野菜が役立ちます。さらに、食事は酸味を控えめにし、米やイモ類、豆などの甘味を補うことで胃腸を助けることも勧められます。春の旬の野菜や果物をバランスよく取り入れ、自然の変化に応じた食生活を心がけることが、健やかな春を過ごす秘訣です。
春の飲み物としては、コーヒー、紅茶、緑茶がありますが、体質や状態にあわせて選ぶことが大切です。コーヒーは温性で覚醒作用があり、心身を温め利尿も促しますが、乾燥しやすい人やのぼせやすい人は控えめにしましょう。
春の飲み物
一方、緑茶や紅茶は潤いを与え、渇きを癒す力があり、特に緑茶は涼性で体を冷やしのぼせやイライラがある人にも適しています。自分の状態を見極めて、飲み物を選び春の養生に役立てましょう。
春のお困りごとに
花粉症
花粉症は、花粉に対して免疫システムが過剰に反応することで起こり、鼻水やくしゃみなどの症状が現れます。中医学では、体を守るバリアエネルギー「衛気(えき)」の不足が花粉症の大きな原因と考えます。衛気は呼吸や食事で作られ、疲労や生活習慣の乱れ、食事の偏り、胃腸の弱りなどで不足しやすくなります。
花粉症には「冷え」タイプと「熱」タイプがあり、冷えには体を温める生姜や玉ねぎ、熱にはきゅうりやトマト、菊花茶などを選びましょう。胃腸をいたわり、早寝やバランスの良い食事で衛気を補うことが、予防と改善の基本です。早めの対策と専門家への相談も大切です。
春の乾燥に
春は空気が乾燥しやすく、肌や喉の調子が不安定になりがちです。中医学では、この時期は「補血」=血を補うことが乾燥対策の基本とされます。黒豆や黒ごま、レバー、マグロ、人参などの黒・赤食材、豆腐や白きくらげなどの白い食材が血と潤いを増やし、乾燥やソワソワ、不安を防ぎます。肝の季節でもある春は、ほうれん草などの緑の食材で気の巡りもサポートしましょう。
朝の白湯、目の疲れには菊花茶やクコ茶、そして早寝・適度な運動も大切です。食事と生活習慣を見直すことで、春の乾燥から体を守り、健やかな季節を楽しみましょう。
春の緊張対策
春になるとソワソワや不安、焦りなど、心が落ち着かないことが多くなります。これは中医学では「肝」の働きが活発になる春の自然な現象と考えられます。肝は気の流れと情緒を司り、働きすぎるとイライラや不安につながります。対策としては、スケジュールを緩めたり、深呼吸、完璧を求めないことなど「のびやかさ」を大切にしましょう。
春の野菜や柑橘類も気の流れを助けてくれます。軽いストレッチや散歩、心地よい香りを楽しむのもおすすめ。無理をせず「春だから仕方ない」と自分をゆるし、穏やかに過ごしましょう。
春という季節は、自然界も私たちの心身も大きく動き始める特別な時です。新しい生命が芽吹き、天地の気が活気づくこの時期には、自然のリズムに身を委ね、ゆったりとした心持ちで日々を過ごすことが、心身の健やかさにつながります。
無理に頑張ろうとせず、心や体にほどよい“ゆとり”を持ちながら、春野菜や旬の食材を食卓に取り入れること、緑や香りに癒されながら深呼吸や軽い運動を生活に織り込むこと、それだけで春のエネルギーは自然にあなたを包み込みます。
また、悩みや不調も「春らしさ」の一つと捉え、ご自身の状態を受け入れ、必要に応じて専門家へ相談することも養生の大切な一歩です。どうか季節やご自身を大切にしながら、やわらかな陽射しの中で、心豊かに伸びやかに春の日々をお過ごしください。皆さまの春が健やかで穏やかでありますように。
春からの新しい生活に寄り添う、暦生活まいにち日めくり
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櫻井大典
国際中医専門員・漢方専門家
北海道出身。好きな季節は、雪がふる冬。真っ白な世界、匂いも音も感じない世界が好きです。冬は雪があったほうが好きです。SNSにて日々発信される優しくわかりやすい養生情報は、これまでの漢方のイメージを払拭し、老若男女を問わず人気に。著書『まいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』 (ナツメ社)、『つぶやき養生』(幻冬舎)など。
