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源氏の色|第一回「位をあらわす衣装の色」

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色から見る平安時代と『源氏物語』

2024年の大河ドラマ「光る君へ」の主人公である紫式部が創作した『源氏物語』。今から千年以上前に書かれた物語の中では、雅な伝統色が人々の衣を彩り、景色を華やかなものにしてきました。それらの色を紐解いていくと、当時の思惑や時代背景まで見えてきます。このページでは、染織家の吉岡更紗さんに、色から見る平安時代と『源氏物語』をお話いただきました。

第一回「位をあらわす衣装の色」

染織家の吉岡更紗です。
私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、植物染を生業としています。

京都の工房・染司よしおか

今年の大河ドラマは、後に紫式部と呼ばれる女性が主人公となり、私も毎週楽しみに拝見しています。今後、『源氏物語』で描かれた登場人物が出てくることはないそうなのですが、物語の中で描かれた場面を彷彿とさせるようなシーンが時折織り交ぜられています。衣装に関しても注目していて、人物のキャラクターや身分、立場によって色合いを上手く組み合わされているようにお見受けしています。

『源氏物語』は光源氏という天皇の皇子としてうまれた才能豊かな男性の恋愛模様を中心に描かれています。

紫式部は、平安時代の最も華やかな時に一条天皇に嫁いだ中宮彰子の教育係を務めているので、貴族たちの生活、宮中の儀式、祭礼から調度や衣裳など細やかな部分まで観察し、見事に描写しています。

恋愛小説がストーリーの中心となるので、今回主題とした「位をあらわす」衣装の色が記述されている場面はそれほど多くはありませんが、その一つが「澪標(みおつくし)」の帖の住吉詣の場面です。

衣装の色により位がわかる「澪標(みおつくし)」の住吉詣

光源氏は、物語の前半、様々な事情があり、京の都を離れ、須磨そして明石へと隠遁生活を送っています。
春、赴いた須磨で暴風雨に遭い、その際に住吉の神にこの嵐が静まるように願をかけるとようやく静まり、明石へと誘われたことから、ようやく帰京した秋に住吉詣(すみよしもうで)をしてお礼参りをすることになりました。

その一行の様子は大変華やかで、
「松風の深緑なるに、花紅葉をこき散らしたると見ゆるうへの濃き薄き、数しらず」=住吉の海岸の松原に、おつきの人々の束帯の上衣の色が、花や紅葉を散らしたかのように、数えきれないほどである、と描かれています。

続いて、

「六位のなかにも蔵人は青色しるく見えて、かの賀茂の瑞垣恨みし右近将監も靫負(ゆぎえ)になりて、ことことしげなる随身具したる蔵人なり。良清も同じ佐にて、人よりことにもの思ひなきけしきにて、おどろおどろしき赤衣すがた、いときよげなり」=六位の中でも蔵人は青い色がはっきりと見えて、あの賀茂の瑞垣を恨んだ右近将監も靫負になって、ものものしそうな随身を伴った蔵人である。光源氏の家来である良清も同じく衛門佐で、誰よりも格別物思いもない様子で、仰々しい緋色姿が、たいそう美しげである。と書かれています。

官位によって、衣服の色が定められたのは、飛鳥時代聖徳太子が政令した「冠位十二階」ですが、時代が進むにつれその色合いは変化していきます。

『源氏物語』は、紫式部が物語をしたためた時から50年ほど前の村上天皇の御代(950年頃)を想定して書かれていると言われているので、この住吉詣では、一位は深紫(こきむらさき)、二位中紫、三位浅紫、四位深緋(こきあけ)、五位浅緋(あけ)、六位深緑、七位浅緑、八位深縹(こきはなだ)、初官となる九位は浅縹、とそれぞれの位に合わせた色の上着を身に着けていると想像できます。

同じ色合いの場合、位の高い方が濃い色を選ばれていることが分かります。大河ドラマ「光る君へ」を見ていると、政(まつりごと)をしている時と、自宅などのプライベートシーン両方が出てきますので、必ずしもという訳ではないのですが、心なしか位の高い方ほど濃い色をお召しになっているような気がします。

また、「六位のなかにも蔵人は青色しるく見えて」とあり、「目立っている」と書かれています。六位はそれほど高い位ではないのですが、その中の蔵人は、天皇の秘書官的役割を担っており、天皇の日常着である「青白橡」、つまり「麹塵色」の上着が臣下に下賜されてそれを着用していたのでは、と考えられています。

大変盛大となったこの住吉詣の一行の華やかな描写は、隠遁生活を送っていた光源氏が都に戻り、これから更なる栄華を極めていく序章のように感じられるのです。

第二回へつづく

吉岡更紗 よしおかさらさ

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

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暦生活編集部

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