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桜海老さくらえび

旬のもの 2026.04.24

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春の光がやわらぎ、海からの風にほのかな甘さが混じる頃、駿河湾の浜辺は淡い桜色に染まります。待ちに待った、桜海老の季節の到来です。

桜海老を使ったかき揚げ。春限定の生桜海老ならではの甘みと香ばしさが楽しめる。

春と秋、年に二度の恵み

小さな体に透き通るような紅を宿す桜海老は、その名のとおり春を象徴する存在です。とりわけ静岡県静岡市清水区由比では、春(3月中旬〜6月初旬)と秋(10月下旬〜12月下旬)、年に二度の漁期を迎えるたびに、海と人の営みが静かに動き出します。

桜海老は単なる食材ではなく、季節の移ろいを告げる自然のしるしとして、地域の暮らしに深く根づいてきました。

水揚げされたばかりの桜海老が淡い紅色に輝く。

偶然から生まれた、100年以上の漁の歴史

国内で桜海老が水揚げされるのは駿河湾だけであり、由比港と焼津市の大井川港のみを漁場としています。その漁の始まりは、明治27年(1894年)のことです。アジ漁の網に偶然桜海老が入ったことがきっかけとなり、以来130年以上にわたって、この海域の漁師たちの生業となってきました。

夜になると水深の浅い場所へと浮上する桜海老の習性を利用し、夜の海に灯りをともして操業し、未明には港へ戻ってすぐさま選別・加工へと移る。この一連の営みは、鮮度を重んじながら資源を守り利用していく知恵の積み重ねであり、漁期が年2回に限定されているのも、桜海老を保護するための取り組みのひとつです。

富士山を背景に広がる、富士川河川敷の天日干し風景。

富士を背に広がる、素干しの風景

富士川河川敷に広がる干し場では、朝の光のもと、桜海老が一面に広げられます。背後には雄大な富士山、目の前には穏やかな駿河湾。海風と日差しという自然の力を借りた「素干し」は、この土地ならではの加工技術です。ゆっくりと乾燥させることで旨味が凝縮され、独特の香ばしさが生まれます。それは単なる保存のための工程ではなく、風土と人の営みが織りなす文化的な風景でもあります。

由比の郷土料理「沖あがり」。漁師たちが沖から上がったあとに囲んだすき煮風の一品。

漁師の絆が育んだ郷土料理「沖あがり」

桜海老は地域の食卓においても多様に親しまれてきましたが、なかでも郷土料理「沖あがり」は、由比の暮らしと桜海老の深い関係を物語る一品です。生の桜海老とねぎ、豆腐を醤油・砂糖・酒でさっと煮た、すき煮風の料理で、漁を終えて戻った漁師たちがお互いを労い、漁の反省をしながら酒の肴としてともに囲んだことに由来するといわれています。「沖あがり」という名も、沖から上がったあとの料理であることをそのまま示しています。近年はその習慣こそすたれてしまいましたが、家庭料理として受け継がれ、地元の学校では給食メニューにも取り入れられるなど、次の世代へとその味が伝えられています。

由比ではGWの時期にあわせて「由比桜えびまつり」が開催され、多くの旅人が訪れます。生の桜海老やかき揚げなど、貴重な春の味わいを手軽に味わえますので、ぜひ訪ねてみてください。季節がめぐり、桜の花が散ったあとに現れる海の桜は、訪れる人の心にも静かな余韻を残してくれます。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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